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2259 ら特集10仙台弁護士会⑤10

平成25年11月14日 法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対する意見書
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法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対する意見書
2013年(平成25年)11月14日
仙台弁護士会会長 内 田 正 之
【意見の趣旨】
法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会に対し
第1に,冤罪防止策,とりわけ黙秘権を中核とする被疑者・被告人の権利の保障を実質化するために,取調べ受忍義務否定と取調べへの弁護人立会権を明文化し,取調べの全過程の例外なき録画録音制度を法制化すること。
 第2に,冤罪防止に資することがなく,人権侵害の危険がある捜査権限拡大策等は特別部会の検討対象としないこと。を求める。
【意見の理由】
第1 「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」の問題点(総論)
1 法制審議会特別部会設置の経緯
 近年,足利事件(2010年に再審無罪),布川事件(2011年に再審無罪),氷見事件(無実の人が服役後に冤罪が判明),志布志事件(「踏み字」などの精神的拷問による取調べ)等の数々の自白強要等による冤罪事件や,村木事件(大阪地検特捜部による証拠改ざん,犯人隠避等の,捜査機関の一連の不祥事)を契機として,捜査の在り方等に対する大幅な見直しの必要性に注目が集まるようになった。そのような事態を受けて,法務省に設置された「検察の在り方検討会議」は,平成23年3月31日,「検察の再生に向けて」と題する提言を発表した。同提言は,「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直し,制度としての取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するため,直ちに,国民の声と関係機関を含む専門家の知見とを反映しつつ十分な検討を行う場を設け,検討を開始するべきである」と結論づけた。法務大臣は,同提言を受け,平成23年5月18日,法制審議会に対して「近年の刑事手続をめぐる諸事情に鑑み,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや,被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など,刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について,御意見を承りたい。」とする諮問第92号を発した。同諮問を受け,法制審議会は,平成23年6月6日に開催された法制審議会第165回会議において,同諮問について調査・審議するための「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「特別部会」という。)の設置を決定した。
2 諮問第92号の趣旨
 特別部会の設置に至る経緯が以上のとおりであることから,諮問第92号にいう「近年の刑事手続をめぐる諸事情」とは,捜査機関の自白強要を防止し,また捜査機関の暴走を抑止するための制度枠組みが存在しないこと,そのため冤罪・誤判が後を絶たなかったという状況を意味することは明らかである。したがって,諮問第92号の趣旨は,憲法及び刑事訴訟法上の適正手続の保障の趣旨を徹底させ,具体的には,取調べの全面可視化を中心として,密室における取調べなど,捜査機関の構造的な問題を抜本的に改善する方策を検討して,冤罪の根絶に資する方向での提言を行う役割を特別部会に求めたことにあり,これが,同部会が立脚すべき原点であったというべきである。
3 特別部会による「基本構想」の内容等
 特別部会は,設置以来,約1年半の審議期間を経た平成25年1月29日の第19回会議において,「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」と題する取りまとめ(以下,「基本構想」という。)を発表した。「基本構想」は,その冒頭で「これまでの刑事司法制度において,捜査機関は,被疑者及び事件関係者の取調べを通じて,事案を綿密に解明することを目指し,詳細な供述を収集してこれを供述調書に録取し,それが公判における有力な証拠として活用されてきた。」「取調べによる徹底的な事案の解明と綿密な証拠収集及び立証を追求する姿勢は,事案の真相解明と真犯人の適正な処罰を求める国民に支持され,その信頼を得るとともに,我が国の良好な治安を保つことに大きく貢献してきたとも評される」と述べ,その上で,従来の取調べ依存型捜査には「ひずみ」が生じているので,捜査の適正確保という観点で「ひずみ」を修正する必要があるとした。また,同時に,「我が国の社会情勢及び国民意識の変化等に伴い,捜査段階での供述証拠の収集が困難化していることは,捜査機関における共通の認識となっている。」「公判廷で事実が明らかにされる刑事司法とするためには,その前提として,捜査段階で適正な手続きにより十分な証拠が収集される必要があり,捜査段階における証拠収集の困難化にも対応して,捜査機関が十分にその責務を果たせるようにする手法を整備することが必要となる一方で,公判段階も,必要な証拠ができる限り直接的に公判に顕出され,それについて当事者間で攻撃防御を尽くすことができるものであるべきであり,こうした観点から,捜査段階及び公判段階の双方について適切な配意がなされた制度とする必要がある。」として,次のような各方策を導いている。
(1)「取調べへの過度の依存からの脱却と証拠収集の適正化・多様化」(捜査段階)
ア 取調べの録音・録画制度の導入
イ 刑の減免制度,協議・合意制度及び刑事免責制度
ウ 通信傍受の対象の拡大・会話傍受
エ 被疑者・被告人の身柄拘束の在り方
オ 弁護人による援助の充実化
(2)「供述調書への過度の依存からの脱却と公判審理の更なる充実化」(公判段階)
ア 証拠開示制度
イ 犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充
ウ 公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策
(司法の機能を妨害する行為への対処)
エ 自白事件を簡易迅速に処理するための手続きの在り方
4 「基本構想」の問題点
 最初に述べたとおり,そもそも特別部会は,憲法及び刑事訴訟法上の適正手続保障の趣旨を徹底し,冤罪の発生を根絶するため,密室における取調べなど,捜査機関の構造的な問題を抜本的に改善する方策の検討を行うために設置されたものである。ところが,「基本構想」は,従来の取調べ依存型捜査を抜本的に見直すことなく,取調べによって得られた「供述」に「過度」に依存しないようにすべきというだけで,むしろ,取調べによる自白を獲得することを捜査の主眼に置くこと自体については従前通りのあり方を肯定しているのである。また,供述の採取過程の形式的な「適正化」のみに目を向け,従前の取調べ制度に内在していた根本的な人権侵害の危険について検討することを回避しており,冤罪の温床となる自白の強要を根絶しようとする視点は全くない。さらには供述が獲得しにくくなったことを理由に,人権侵害の危険が増大することを考慮しないままに証拠収集をより容易にすることのみを目指すかのような姿勢までをも示している。この「基本構想」のとおりに法改正がなされるとすれば,黙秘権の保障を中核とする被疑者・被告人の権利の保障を実質化し,憲法及び刑事訴訟法上の適正手続保障の趣旨を徹底して冤罪・誤判等の発生を根絶することは極めて困難となるばかりでなく,かえって捜査機関の権限が不当に拡大され,より多くの冤罪・誤判及び人権侵害が発生することが懸念されるものである。よって,当会は,特別部会が年内にも意見を取りまとめるという状況にあることに鑑み,「基本構想」には多数問題が含まれているが,そのなかでも緊急に「意見の趣旨」記載の2点について要望する。
 第2 黙秘権を中核とする被疑者・被告人の権利の保障を実質化し,捜査の適正を担保するための制度の法制化
1 全過程の例外なき録画録音制度の法制化
 前記の経緯の中で設置された特別部会においては,全ての刑事事件について取調べ全過程の録画録音を法制化することが喫緊の課題であったはずである。しかしながら,「基本構想」の内容,及びその後の特別部会における議論においては,全事件の取調べ全過程の録画録音制度は検討対象としては消え去っており,以下に述べるとおり,録画録音対象犯罪の限定,録画録音の義務を免除する例外を広範に認める方向での議論が進められている。
 第1に,録画録音の対象事件は,全刑事事件の3パーセントにも満たない裁判員裁判事件に限定され,かつ,身体拘束前の任意の取調べは録画録音対象とされていない。これでは,捜査の適正化の契機の一つとなった村木事件は録画録音対象とならず,志布志事件のように任意捜査の段階において被疑者を屈服させるような違法な捜査を防止することもできず,捜査の適正化という録画録音の目的は大きく後退することになる。
 第2に,特別部会においては,録画録音義務を免除する広範な「例外」を設ける方向で論議されており,録音・録画により「弊害が生じるおそれがあると認めるとき」という一般条項さえ検討の対象に上っている。このような広範な例外規定の検討に対して,村木委員からは「原則と例外が逆転している」という批判的意見が述べられている。かかる広範な例外を認めるならば,結果的には捜査官の恣意によって都合の良い場面だけを録画録音するのに限りなく近い制度となり,録画録音は,かえって虚偽の自白を覆い隠す危険な制度と化してしまう恐れがある。捜査官が被疑者を誘導したり威迫・偽計によって困惑させたりする場面について恣意的に録画録音を免除できるような制度では,捜査の適正化を事後的に検証する制度としては機能しない。事後的検証のためには,一切の例外を認めることなく,任意捜査の段階も含めた取調の全過程の録画録音制度が法制化されなければならないのである。
2 黙秘権保障のための取調べ受忍義務否定と弁護人立会権の法制化
(1)黙秘権の保障を担保する取調べ受忍義務の否定法制化
 憲法38条1項は,何人に対しても黙秘権を保障している。黙秘権は,違法の取調べの防止にとどまらず,自己に不利益な告白を強いられないという人間の尊厳に根ざした権利である。被疑者・被告人は無罪を推定され,訴追側の立証に協力したり,積極的に弾劾したり,無罪を立証することを強いられないことが権利として保障されているのである。黙秘権はこうした憲法上の人権として保障されている以上,被疑者・被告人がそれを行使すると決定した以上は,完全に尊重されなければならない。すなわち,黙秘権を行使した被疑者・被告人については,取調べを拒絶する権利の保障が必然的に導かれるのであり,黙秘権は取調拒絶権を必然的に内包しているというべきである。しかしながら,わが国においては,刑事訴訟法198条1項の反対解釈として,身体拘束中の被疑者には取調べ受忍義務があることを前提とした捜査が行われている。被疑者が供述を拒み黙秘権を行使することを決定した場合でも,取調室からの退去が認められないことにより,黙秘しようとする被疑者は,「代用監獄」の取調室という密室の中で,取調官による絶え間ない詰問と利益誘導,精神的なプレッシャーに晒されることになり,これが虚偽自白と冤罪の温床となってきた。密室を利用した捜査官によるプレッシャーによって,無実の人が虚偽自白が原因で冤罪となった事件は,初めに述べた足利事件等の著名な冤罪事件や,遠隔操作ウイルス事件(大学生を含む無実の人が自白を強要され刑事・少年法上の処分を受けた)等,枚挙にいとまがない。特別部会は,憲法が黙秘権を保障している趣旨に立ち返り,取調べ受忍義務を否定する規定を明文で確認する制度を法制化すべきである。自白獲得に依存した捜査構造を改め適正化することを任務とする特別部会において,取調べ受忍義務否定の問題が検討の対象にすら上がっていないこと自体が極めて遺憾と言わざるを得ない。
(2)取調べへの弁護人立会権を認めるべきこと
黙秘権保障を担保するためには,取調べへの弁護人立会権を法制化すべきである。黙秘権が真に保障されているか否かについて,法律専門家の視点からチェックし,供述するか否かについての利益不利益の検討,供述する範囲の検討等について,被疑者が主体性を発揮するためには弁護人の立会権保障が不可欠であり,既に欧米諸国,韓国,台湾など諸外国では当然の制度として位置づけられている。弁護人の立会いのない密室において自白獲得のための取調べに依存した我が国の捜査の構造については,今年の国連拷問禁止委員会において「中世のようだ」と批判されていることを特別部会は銘記すべきである。特別部会では,取調べ受忍義務をめぐって「取調べ受忍義務があるかどうかといった神々の争いとも言うべき議論を正面からしなければならない話になってくるので,そういうところまで踏み込んで議論するつもりですか」との発言,弁護人立会権を認めるべきであるという意見に対して「かつてどこかで読んだ教科書の理想型を全部並べておられる観がありましたけれども」,「このように,教科書的なメニューを羅列するより,もっと現実に必要でインパクトのあるところに絞って議論した方がよいのではないのかと思います」との発言があり,その後,上記の問題は特別部会の議論の対象から除かれてしまっている。こうした議論の仕方は,「抜本的な」見直しを行うとした特別部会の本来の任務を踏み外したものというべきであり,極めて大きな問題がある。特別部会においては,弁護人立会権を認めることは,取調べの自白獲得という有用な機能が果たせなくなるという意見があるが,こうした意見は,自白こそが最も重要な証拠であるとする,自白依存主義とでも言うべき考え方の表れである。しかし,こうした自白獲得に依存した捜査の構造を維持しようとする我が国の捜査実務を改革することこそが特別部会に課せられた任務であり,国際的に求められている水準であることを,特別部会は銘記すべきである。
3 結論
 以上述べたとおり,仮に取調べの録画録音が実現したとしても,それだけで冤罪の原因となった密室における自白獲得依存の取調の在り方が根本的に改革されるわけではない。取調べ全過程の例外なき録画録音は,捜査の適正化のための最低限の必要条件であって十分条件ではないのである。捜査を適正化するためには,被疑者には取調べ受忍義務がないことの明文での確認,及び取調べへの弁護人立会権を明文化しなければならない。取調べ受忍義務の否定,取調べへの弁護人立会権の保障,捜査の適正を事後的に検証する制度としての取調べ全過程の例外なき録画録音制度が一体となってこそ,真に黙秘権を中核とする被疑者・被告人の権利は保障され,捜査の適正化が図られるのである。特別部会は,本来の任務に立ち戻って,上記のような制度の検討を行うべきである。
第3 捜査権限拡大策等を検討対象から除外すべきであること
1 捜査権限拡大策等が検討されていることについての批判
 特別部会は,取調べの可視化については上記の通り不十分な検討しかしていない反面,捜査機関の権限を拡大させる方向等での検討には不必要なまでに重点を置いている。以下,重要なものに絞って指摘する。
2 通信傍受法の合理化・効率化及び会話傍受の導入の危険性
 (1)特別部会は,犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下,「通信傍受法という)に定める通信傍受が組織犯罪等に対して持つ捜査上の有用性を強調し,これを「取調べを通じた事後的な供述証拠の収集に代替するもの」としてより効果的・効率的に活用する方向で検討を始めた。「基本構想」は,対象犯罪を拡大し,一定の場合に通信事業者による立会いを不要とすることなどを検討課題として掲げており,さらに,特別部会第1作業分科会が検討結果を中間的に取りまとめた「作業分科会における検討(1)」においては,通信傍受法の対象犯罪を窃盗,強盗,詐欺,恐喝,殺人,逮捕・監禁,略取・誘拐まで拡大することとして,重大犯罪とは言い難い類型の犯罪についてまで通信傍受の対象犯罪を拡大する方向での検討がなされている。
 (2)しかし,そもそも通信傍受はその性質上,憲法の定める捜索・差押えにあたって場所及び対象物の特定を要求している令状主義(憲法35条),適正手続の保障(憲法31条)をはじめとする憲法上の要請を満たすことが困難な捜査手法である。また,かかる捜査手法はプライバシーの侵害等深刻な人権侵害をひろく生じさせる危険性をも内在するものである。現行の通信傍受法は平成11年に成立しているが,同法の検討段階から既にこのような批判はなされていたところであり,それゆえに従来の通信傍受法においては,対象犯罪はごく重大なものに絞られ,また,人権侵害を完全に防ぐにはなお不十分なものではあるにせよ,通信事業者の立会いなど厳格な手続的要件が設けられていたものである。それにも関わらず,特別部会においては,同法を「使い勝手が悪い」とする意見も出されており,特別部会全体としても対象犯罪を拡大し,通信事業者の立会いを不要とするなど,通信傍受をより広く認める方向での改正が検討されているのである。しかし,特別部会の議論は通信傍受という捜査手法に内在する危険を無視するものであり,同法の成立過程に照らしてみても到底許容できないものである。
 (3)最大の問題は,一定の場所を対象とした会話傍受の制度化をも検討の対象としていることである。会話傍受は,傍受機器を用いて室内等で行われる会話そのものの傍受を可能とするものであるから,通信傍受以上に,令状主義,適正手続保障違反,個人のプライバシーに対する甚大な侵害となる。特別部会が会話傍受に関する議論を始めたこと自体,問題と言わざるを得ない。ところが,特別部会は,十分な議論を尽くすことさえしないまま,既に制度の採用を前提とするかのような技術的課題に関する議論を進めているのである。
 (4)特別部会は,そもそも,今般の刑事司法制度改革をめぐる議論の始まりが,取調官による自白の強要に基づく冤罪事件の相次ぐ発覚と検察による証拠の改ざん問題にあったことを想起すべきである。捜査機関の構造的な問題を,捜査の適正を監視することによってではなく,捜査権限を拡大することによって解決するというのでは明らかに議論の方向性を誤っている。通信傍受法の対象犯罪の拡大や会話傍受の制度化といった捜査権限の拡大と強化は,自白の強要による冤罪の発生を抑止する効果を持つものではない。むしろ,このような改正を認めるならば,自白しなければ関係者・関係機関に対する会話傍受を行うことを示唆して捜査対象者を無理矢理自白に追い込むなど,かえって自白への不当な圧力を強める結果となるおそれさえある。通信・会話傍受の検討は,冤罪の根絶と適正な捜査の実現とは無関係であるだけでなく,令状主義等の憲法上の要請に反することにつながるものであり,特別部会において議論すべきものではない。
3 刑事免責制度(司法取引)の危険性
 (1)特別部会においては,捜査への協力と引き換えに刑罰を減免する刑事免責制度,いわゆる司法取引の制度を設けようとしている。
 (2)しかし,従前の司法取引に関する議論においては,刑罰の減免を条件に供述をさせることは,黙秘を貫けば相対的には不利な処分になり得ることから,被疑者の虚偽の自白を生み出す危険性が非常に高い,違法な「利益誘導」とされてきたところである。また,共犯者の自白についても,従前は引っ張り込みの危険があるとされ,その証拠能力・信用性が,通常の証言・供述よりも厳密に検討されるべきとされてきたところ,司法取引を認めるとすれば,かえって引っ張り込みの危険は増大する。
 (3)また,従前は,量刑は裁判所が判断し,捜査機関の取調べの結果は量刑の判断においては検討の一つの材料に過ぎなかったところ,司法取引が導入された場合には,捜査機関が量刑の判断に直接の影響を及ぼすことになり,捜査機関の取調べの刑事司法制度への影響力をむしろ強めることになる。これは,密室での取調べによって自白を得ることを中心に据える従前の捜査のあり方を抜本的に見直すとした,そもそもの諮問の趣旨に反する結果となる。
 (4)結局,司法取引を導入したとしても,虚偽の自白が強要・誘発される危険性が今までよりも増大し,結果的には黙秘権が侵害される危険が生じるのみならず,捜査機関が量刑の帰趨までも実質的に掌握する結果が招来されるだけであり,極めて問題が大きい。
4 被告人の証人化の危険性
 (1)「基本構想」では,証人の不出頭,宣誓・証言拒絶の各罪の法定刑の引き上げ,証人の勾引要件の緩和,証拠隠滅等の法定刑の引き上げの他に,公判廷に提出される証拠が真正であることを担保するための方策として,被告人を証人として扱うという法改正が検討されている。具体的には,現在の被告人質問制度を廃止し,被告人が事件について事実を述べるためには,証人とならなければならず,被告人が証人となれば包括的黙秘権を放棄したものとし,一般の証人と同様の証言拒絶権の行使以外は黙秘や供述拒否を認めないこと,被告人の虚偽供述に対する制裁(偽証罪)を設けることが検討されている。
 (2)しかし,被告人を証人として扱い,偽証罪の適用を認めることになれば,被告人の公判廷での供述に萎縮効果を与えることは明らかである。刑事訴訟法322条により,被告人の不利益供述は任意性さえ認められれば公判廷に提出されうる扱いとなっているのであるから,もし捜査段階では取調べの圧力に負けて虚偽の自白をした被告人が,公判廷において調書の内容と異なる供述をした場合には,「偽証罪」の圧力を背景に,検察から調書を元にした反対尋問がなされ,かえって被告人が真実を語ることができないことになりかねない。刑事訴訟法322条を改正せずに単に被告人を証人として偽証罪の制裁を科すことが可能になれば,裁判が,被告人の言い分に対して充分に耳を傾ける手続ではなくなってしまうことになり,適正手続の保障に反する結果となる。また,無実の被告人が証言のうえ有罪となった場合,公判廷で証言したことが偽証罪で処罰される事態も生じかねず,二重に冤罪を生み出す危険もある。
5 結論
 特別部会は,取調べの可視化によって捜査機関の自白採取機能が低下することを懸念し,その交換条件としてこのように捜査機関の権限を拡大させる方向での改正を盛り込む方針であるとみられる。
しかし本意見書の意見の理由第1の通り,そもそも可視化について不十分な検討しかなされていない現状で捜査機関の権限拡大策等を検討するとすれば,特別部会の設置の趣旨は没却され,かえって違法捜査及びそれによる人権侵害を一層助長する結果になりかねない。
したがって,上記のような冤罪防止に資することがなく,人権侵害の危険がある捜査権限拡大策等は検討の対象から外されるべきである。

平成25年10月18日 特定秘密保護法案の制定に強く反対する会長声明
ttp://senben.org/archives/4763
政府は,本年10月15日に開会した臨時国会における特定秘密の保護に関する法律案(以下,「本法案」という。)の提出及びその成立を目指している。従来,当会は秘密保護法制の問題点を指摘してきたが,本法案にも,看過できない重大な問題が存する。本来,国政に関する情報は主権者である国民に提供されるのが原則であるところ,現状,情報公開は不十分である。また,秘密の保護については既に国家公務員法や自衛隊法,MDA秘密保護法(日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法)等によって秘密漏えい行為に対する罰則が設けられており,過去の秘密漏えい事案にしても情報管理システムの適正化や情報保全教育により防止できたものである。かかる状況に加え,以下に述べる具体的問題点からは,本法案は,弊害のみ多く,特定秘密保護の名の下に国民が知るべき情報を秘匿し,ひいては国民主権を後退させかねない危険をはらむものであることから,当会はその提出及び制定に強く反対するものである。
 第一に,「特定秘密」の範囲が,「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」,「テロリズムの防止」と広範かつ不明確であり,本来秘密として保護すべき必要性のない情報までもが「特定秘密」として保護される危険性がある。この点,本法案は,「特定秘密」の指定等の統一的な運用基準について有識者の意見を聴かなければならない旨規定するが(法案第18条2項),これは,「特定秘密」指定の統一基準について意見を述べるにとどまり,個々の秘密の内容をチェックする権能を有さない。また,本法案は,「特定秘密」の指定を30年を超えて延長する場合には内閣の承認を必要とする旨規定するが(法案第4条3項),行政権力の恣意により秘密を維持する危険性があることに変わりはなく,また事実上30年間は「特定秘密」の指定を維持できることを認めることにほかならないのであって,問題点はなんら解消されていない。
 第二に,「特定秘密」の範囲が広範かつ不明確であるとともに,故意の漏えい行為にとどまらず,過失による漏えい行為のほか,漏えい行為の未遂,共謀,教唆及び扇動,並びに「特定秘密」の取得行為(特定秘密の管理侵害行為)とその行為の未遂,共謀,教唆及び扇動についても処罰しようとしている(法案第22条ないし第26条)。これは,犯罪と刑罰を法律により具体的かつ明確に規定しなければならないという罪刑法定主義(憲法第31条)の観点から重大な疑義が存し,取材活動の萎縮や知る権利に対する制約をもたらす。この点,本法案は,「知る権利の保障に資する報道の自由又は取材の自由に十分に配慮」する旨規定する(法案第21条1項)。しかし,判例上,報道の自由が憲法第21条の保障のもとにあることは確立されており,また,取材の自由も憲法第21条の趣旨に照らし十分尊重に値するものとされているのであるから,改めてその文言を規定する実益は乏しい。また,本法案は,取材行為について「専ら公益を図る目的を有し,かつ,法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは,これを正当な業務による行為とする」と規定するが(法案第21条2項),「著しく不当」の意味内容が漠然不明確であり,濫用防止効果には疑義がある。このように,知る権利や報道の自由,取材の自由について配慮規定が置かれたとしても,取材活動などの国民の自由に対して深刻な萎縮効果を与える懸念は全くぬぐい去れない。
 第三に,本法案では,国会議員への特定秘密の提供は行政機関の長等の裁量に委ねられており,提供するための条件も政令で定めるとされている(法案第10条)。加えて,特定秘密を漏えいした国会議員も処罰(過失も含む)の対象としており(法案第22条2項,3項,5項,第10条1項1号イ),国会議員が秘密の委員会や調査会で知得した「特定秘密」に係る情報を他の議員等に知らせることができなくなってしまう。これは,国会や国会議員が行政機関のコントロール下にあるに等しく,議会制民主主義の否定ともいうべき大問題である。
 第四に,特定秘密を取扱う者を選別する適性評価制度は,特定有害活動及びテロリズムとの関係,犯罪・懲戒歴や薬物の乱用又は影響に関する事項,精神疾患に関する事項,飲酒についての節度に関する事項,信用状態等といった機微にわたるプライバシー情報を調査するとともに(法案第12条2項),本人の友人等についてまで調査するおそれがあり,プライバシーを侵害する危険がある。
 上記問題点に加え,政府が本法案の提出に先だって実施したパブリックコメントにおいては,わずか2週間の間に9万件を超える意見が寄せられ,そのうちの実に4分の3以上となる約77%が法案に反対している点も重く捉えられるべきである。以上の理由から,本法案は国会に提出されるべきではなく,当会は本法案の制定に強く反対する。
2013年(平成25年)10月18日仙台弁護士会会長内田正之

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2258 ら特集10仙台弁護士会⑤9

平成26年08月19日 「特定秘密の指定及びその解除並び適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」に対する意見書
ttp://senben.org/archives/5496
「特定秘密の指定及びその解除並び適性評価の実施に関し
統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」に対する意見書
2014年(平成26年)8月19日
内閣官房特定秘密保護法施行準備室「意見募集」係 御中
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生
仙台市青葉区一番町2丁目9番18号
電話 022-223-1001
第1 はじめに
特定秘密保護法は,国民の知る権利やプライバシー権等の人権を侵害し,国民主権にも抵触する重大な問題を孕んでいる。したがって,同法は廃止されるべきであり,少なくとも抜本的な見直しがないままの施行は許されない。そして,法律自体に憲法上の問題がある以上,それに基づく運用基準も制定されるべきではない。
また,この点を置くとしても,2014年7月24日付けで公表され意見募集がなされている「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」(以下「運用基準案」という。)にも看過し難い問題があるため,以下のとおり意見を述べる。
第2 意見
1 総論
(1)法形式について
 そもそも法律で定めるべき重要事項を政令及び運用基準において定めているという法形式自体に問題がある。 政令及び運用基準は,法律の委任を受けて政府が定めるとされているが,白紙委任に等しい項目もあり,国民の権利義務に直結する重要事項は法律で定めるべきとの原則に照らしても問題がある。また,政令や運用基準が,法律と異なり,国会の議論を経ることなく改廃できる点においても大きな不安が残る。
(2)意見の観点
 前記第1で述べたとおり,当会は,特定秘密保護法は廃止されるべきと考えるが,本意見書では運用基準案について,①特定秘密保護法の濫用的な運用を抑制できないこと,②特定秘密保護法の委任の範囲外の事項を定めていること,③特定秘密保護法の問題点がより一層明らかになったこと,の観点から意見を述べる。
2 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「1 策定の趣旨」について
(1)意見
 特定秘密の指定の範囲を極力限定すること,指定の恣意性の排除を担保することを「策定の趣旨」に明記していないのは不適切である。
(2)理由
 「策定の趣旨」では,「特定秘密の漏えいの防止を図るとともに,その適正を確保する」ことを掲げているが,全体として特定秘密指定された情報の漏えいを防止することに力点が置かれ,特定秘密の指定範囲の限定や恣意的な指定の排除といった国民の知る権利への配慮や秘密指定の適正さの担保の観点が欠落している。
 3 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」の「(1)拡張解釈の禁止並びに基本的人権及び報道・取材の自由の尊重」について
(1)意見
 国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)を踏まえておらず不適切である。
また,ツワネ原則で示されている諸原則が特定秘密保護法に明記されていないこと自体が不適切である。
(2)理由
 国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)で定められている以下の諸原則が特定秘密保護法や運用基準案では定められておらず,恣意的な秘密指定を抑制することができず,不適切である。
①国民の情報アクセス権を制限する正当性の証明が政府の責務であることの明示(原則1,4)
②政府が秘密にしてはならない情報の明示(原則10)
③秘密指定が許される最長期間の明示(原則16)
 (特定秘密保護法第4条は秘密指定の有効期間を定めているが,同条ただし書では永久秘密を認めており,最長期間の明示が不徹底である。)
④国民が秘密解除を請求するための明確な手続規定(原則17)
⑤全ての情報にアクセスできる独立した監視機関の設置(原則6,31~33)
⑥内部告発者の保護規定(原則37~46)
⑦一般国民は秘密情報を求めたり入手したりしたという事実を理由にした刑事訴追をされない(原則47)
 4 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」の「(2)公文書管理法と情報公開法の適正な運用」について
(1)意見
① 特定秘密指定の有効期間の長短にかかわらず,恣意的な文書廃棄を防止するための具体的措置が明記されていないのは不適切である。
② 特定秘密指定についての政府の説明責任が不明確である。
(2)理由
① 特定秘密に指定される情報は,国家の安全保障に関するものであるから,基本的に歴史資料として重要なものであると認められる。したがって,事後の検証を確保するために,特定秘密に指定された情報を記録する公文書については恣意的に廃棄されない仕組みが必要不可欠である。しかし,特定秘密保護法や運用基準案ではその仕組みが無く,恣意的な文書廃棄を許容するかたちになっている。② ツワネ原則(原則1,4)にも示されている点であり,国民主権の下では国政に関する情報は国民に開示されるのが大原則であり,政府は特定秘密指定する場合には,当該情報を特定秘密にした具体的根拠について説明する責任がある。しかし,特定秘密保護法や運用基準案ではこの点が明記されておらず,恣意的な特定秘密指定をしても抽象的な説明のみに終始し,国民がそれを追及する可能性を閉ざしている。
 5 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」の「(3)特定秘密を取り扱う者等の責務」について
(1)意見
 特定秘密取扱者等が違法秘密や疑似秘密(時の政府の政治的利益のために特定の情報を秘匿する目的で指定される秘密)に接したときには通報の措置をとる責務が無いのは不適切である。
(2)理由
 恣意的な特定秘密指定を排除するためには特定秘密取扱者等からの通報も重要な意義を有するところ,特定秘密取扱者等の責務として違法秘密や疑似秘密に接したときの措置を定めていないのは不適切である。
 6 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(1)別表該当性」について
(1)意見
違法な行為に関する情報が除外されていないのは不適切である。
また,特定秘密保護法で定められていない米軍に関する情報までをも運用基準案に盛り込むことは法律の委任の範囲を逸脱しており不適切である。運用基準案に示されている事項は抽象的・広範であり,具体的な対象が示されていない。そのため,限定機能を果たしておらず,特定秘密の範囲が広範であるという特定秘密保護法の問題点は何ら解消されていない。
(2)理由
 例えば,運用基準案の別表第1号のイa(b)では「自衛隊の情報収集・警戒監視活動」が定められているが,ここには仙台地裁平成24円3月26日判決(判例時報2149号99頁)において,「各原告がした活動等の状況にとどまらず,これら各原告の氏名,職業に加え,所属政党等の思想信条に直結する個人情報を収集」しており,「人格権を侵害」し違法であるとされた自衛隊情報保全隊による国民監視活動も含まれることになる。自衛隊情報保全隊国民監視訴訟における自衛隊情報保全隊長等の証人尋問申請に対して,防衛大臣は民事訴訟法第191条第2項に規定する「公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある場合」に該当するとして証言することの承認を行わない旨回答しているが,特定秘密保護法施行後は特定秘密に指定されているという理由のみで証言の承認を拒否するおそれがあり,違法行為が国民に知らされないことが「保障」されてしまう。運用基準案の別表第1号のイbには「アメリカ合衆国の軍隊(以下「米軍」という。)の運用」が明記されている。しかし,これは特定秘密保護法には明記されていない事項であり,明らかに法律の委任の範囲を逸脱している。運用基準案によっても特定秘密の範囲は限定されておらず,広範な情報を特定秘密にし,刑事罰の威嚇をもって国民から遠ざけるという特定秘密保護法の問題点は何ら解消されていない。
 7 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(2)非公知性」について
(1)意見
 非公知性の判断は,客観的になされるべきであり,少なくとも外国の政府により公表・開示されたり,報道機関により公表された情報は一律に非公知性の要件を欠くとすべきである。
(2)理由
 国民の知る権利保障の観点からは,当該情報が国民が知り得べき状態に至った場合には一律に非公知性を欠くとするのが適切である。
 8 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(3)特段の秘匿の必要性」について
(1)意見
運用基準案で示されている例示は抽象的であり,不適切である。
(2)理由
 当該情報の漏えいにより「我が国の安全保障に著しい支障を与える事態が生ずるおそれ」の有無は具体的になされるべきであり,運用基準案に例示されている程度の抽象的判断では限定機能を果たさない。
 9 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(4)特に遵守すべき事項」について
(1)意見
 「イ 公益通報の通報対象事実その他の行政機関による法令違反の隠蔽を目的として,指定してはならないこと」の「隠蔽を目的」は不要である。また,公益通報の対象事実その他の行政機関による法令違反は特定秘密指定してはならないことは,特定秘密保護法に明記すべき事項である(前記第2-3参照)。
(2)理由
 「隠蔽目的」という主観的要素が加えてしまうと,法令違反を特定秘密に指定する際に隠蔽目的は無いという口実を与えることになる。
10 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「3 指定手続」の「(2)」について
(1)意見
① 「行政機関の長は,指定する際には書面又は電磁的記録により,当該指定に係る情報を他の情報と区別することができ」は「区別しなければならず」となっておらず,不適切である。
② 「指定の要件を満たしていると判断する理由」は,具体的に記述されるべきであり,特に,別表該当性については,単に別表に該当するだけでなく,その具体的事情が明記されるべきところ,運用基準案ではそこまで言及しておらず不適切である。
(2)理由
① 特定秘密を明確にするためには,当該指定に係る情報と特定秘密として取り扱うことを要しない他の情報とは,常に区別することが求められるというべきである。
② 「指定の要件を満たしていると判断する理由」が形式的・定型的な記述で良いとすれば,特定秘密の要件を定めた趣旨が失われるおそれが大きいので,「指定の要件を満たしていると判断する理由」は具体的に記述されるべきである。特に,別表該当性については,単に別表に該当するというだけでは実質的には理由が全く記述されていないのとを同じであるから,具体的事情まで記述されるべきである。
11 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「3 指定手続」の「(4)」について
(1)意見
 災害時の住民の避難等国民の生命及び身体を保護する観点から,特定秘密の指定を解除すべきとされる情報は,そもそも特定秘密指定の対象とすべきではない。
(2)理由
 上記情報は,本来,被災時に国民が適確に判断して避難できるように広く公開されるべきであり,特定秘密指定にはなじまない。
12 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「4 指定の有効期間の設定」について
(1)意見
 情報通信技術の動向に密接に関係する情報については,指定に理由を見直すに当たって適切な最も短い期間を「3年等」としているのは不適切である。(2)理由
情報通信技術の発展速度に鑑みれば,3年等は長すぎる。
 13 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「6 指定した特定秘密を適切に保護するための規程」について
(1)意見
 特定秘密の保護措置は,政令や運用基準に委ねるのではなく特定秘密保護法で明記すべきである。
また,施行令案第12条第1項第10号は特定秘密の漏えいのおそれがある緊急事態に際して特定秘密文書等の廃棄を定めているが,これは法律の委任の範囲を逸脱するものであるから削除すべきであり,運用基準案からも削除すべきである。
(2)理由
 特定秘密の保護措置は,特定秘密の保護を目的とする法律の中心的な事項であるから,本来法律で明記すべき事項である。にもかかわらず,政令や運用基準に委ねることは,国会によるチェックを無にしてしまうものであって適切ではない。また,施行令案第12条は特定秘密保護法第5条第1項に基づくものであるところ,同項では政令への委任の範囲として特定秘密文書等の廃棄にまでは言及していない。にもかかわらず,政令や運用基準案で廃棄を規定することは法律による委任の範囲を逸脱するものである。
 14 運用基準案「Ⅲ 特定秘密の指定の有効期間の満了,延長,解除等」の「1 指定の有効期間の満了及び延長」の「(1)指定時又は延長時に定めた有効期間が満了する場合」について
(1)意見
アないしオに掲げられた情報について,特定秘密指定の有効期間を延長する前提での記述となっており不適切である。
(2)理由
アないしオに掲げられた情報は役割を終えた情報であるから,特定秘密として保護する必要性は認められない。
 15 運用基準案「Ⅲ 特定秘密の指定の有効期間の満了,延長,解除等」の「3 指定が解除され,又は指定の有効期間が満了した当該指定に係る情報を記録する行政文書で保存期間が満了したものの扱い」の「(2)指定の有効期間が通じて30年以下の特定秘密」について
(1)意見
 指定の有効期間が通じて30年以下の特定秘密も,すべて国立公文書館等に移管すべきであり,法律で明記すべきである。
(2)理由
 特定秘密に指定される情報は,国家の安全保障に関するものであるから,基本的に歴史資料として重要なものであると認められる。したがって,事後の検証を確保するために,特定秘密に指定された情報を記録する公文書については恣意的に廃棄されない仕組みが必要不可欠である。
 16 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」の「(1)プライバシーの保護」について
(1)意見
 同意を得る対象に評価対象者の家族同居人も加えていないのは不適切である。また,この点が特定秘密保護法に明記されていないことも不適切である。
(2)理由
 適性評価の実施においては,評価対象者のみならず家族同居人のプライバシーも関わる以上,彼らのプライバシー情報を同意無く取得することは不適切である。
 17 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」の「(2)調査事項以外の調査の禁止」について
(1)意見
 「適法な」政治活動及び労働組合の活動の内容が曖昧であり,不適切である。信教の自由への配慮がないのも不適切である。禁止事項に違反した調査を行った職員に対する懲戒処分その他適切な措置を講ずることの明記がないことも不適切である。 以上の点が特定秘密保護法に明記されていないことも不適切である。
(2)理由
 政治活動や労働組合活動に「適法な」と限定を付すことにより,その内容の曖昧性,第一次判断者が政府や行政機関となることに鑑みると,恣意的判断のおそれや萎縮効果の危険がある。また,警察庁や自衛隊情報保全隊はイスラム教徒やその団体を「国際テロ容疑」で調査していたことが明らかになっており,このような調査が信教の自由を侵害していることは明らかである。このような違法な調査を禁止する措置が特定秘密保護法や運用基準案で明記されていないのは不適切である。プライバシーや思想信条の自由,信教の自由等の保護の観点からは,禁止事項に違反した職員に対して懲戒処分その他適切な措置を講じる必要があるところ,その記述がないのも不適切である。
 18 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」の「(3)適性評価の目的外利用の禁止」について
(1)意見
 目的外利用の禁止の範囲を「人事評価のために」に限定するのは不適切である。また,禁止事項に違反した調査を行った職員に対する懲戒処分その他適切な措置を講ずることの明記がないことも不適切である。この点が特定秘密保護法に明記されていないことも不適切である。
(2)理由
 特定秘密保護法第16条は,特定秘密の保護以外の目的で適性評価の結果やその実施に当たって取得した個人情報の利用・提供を禁止している以上,運用基準案で「人事評価のために」に限定するのは不適切である。プライバシー保護の観点からは,禁止事項に違反した職員に対して懲戒処分その他適切な措置を講じる必要があるところ,その記述がないのも不適切である。
 19 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「4 適性評価の実施についての告知と同意」の「(1)評価対象者に対する告知」について
(1)意見
① 別添1の「告知書」の「2 適性評価で調査する事項」のうち,特定有害活動及びテロリズムの防止に関する事項が具体的でなく,不適切である。
② 別添1の「告知書」の「3 調査の方法」において,個別的に同意書をとることを前提にしていないのは不適切である。
(2)理由
① 特定有害活動及びテロリズムの防止に関する事項が具体的でないため,どのようなことが調査されるのかが不明であり,同意不同意についての正確な判断を阻害しかねない。
② 調査開始前に同意書を提出するため,評価対象者は,どのような事項について,どのような調査(調査のためにどこに照会するのか,どのような内容の調査をするのか等)が具体的に分からないまま同意書の提出を余儀なくされる。このような同意書をあらゆる調査についての包括的同意を与えたものとすることは,白紙委任を認めたに等しくプライバシー保護の観点からは不適切である。
 20 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「4 適性評価の実施についての告知と同意」の「(2)同意の手続」について
(1)意見
① 包括的な同意は不適切である。
② 評価対象者の家族・同居人を調査する際に彼らから同意書を取得しないことは不適切である。
(2)理由
① 別添2-1の「同意書」では,「私の知人その他の関係者に」質問させ,資料の提出を求めさせることに同意する旨の記載がある。しかし,これではどの範囲の知人その他の関係者なのかが不明であり,白紙委任的な内容である。このような同意取得の手続では,真の同意を取得したことにならない。
② 特定秘密保護法第12条第2項第1号は,評価対象者の家族・同居人の氏名,生年月日,国籍(過去に有していた国籍を含む。)及び住所を調査事項と定め,同条第4項ではさらに調査することも認めている。これらは個人情報に該当するところ,家族・同居人の同意を取得せずに調査することはプライバシー保護の観点からみて不適切である。
 21 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「4 適性評価の実施についての告知と同意」の「(3)不同意の場合の措置」について
(1)意見
不同意書面を要求するのは不適切である。
(2)理由
 添付3の「不同意書」には,不同意の結果「特定秘密の取り扱いの業務が予定されていないポストに配置換となること等」があることが予告されている。「配置換となること等」という不明確な取扱いの予告は,評価対象者に強い不安感を与えるものであり,事実上同意を強制することにつながるおそれがある。
 22 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「8 苦情の申出とその処理」の「(1)苦情の処理のための体制」及び「(3)苦情の処理の手続」について
(1)意見
 苦情処理担当者には,当該苦情申立をした評価対象者の適性評価の実施に直接従事した職員のみならず,調査の過程で質問や資料提供に応じた職員も指定されるべきではない。
(2)理由
 適正に苦情処理を行うためには,当該適性評価の実施に関与していない者が行うのが適切である。
 23 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「3 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の検証・監察・是正」の「(1)内閣府独立公文書管理監(仮称)による検証・監察・是正」について
(1)意見
 内閣府独立公文書管理監(仮称)及び内閣府情報保全監察室の独立性を確保するためには,構成員に弁護士,研究者その他外部の有識者を入れ,行政機関から就任する構成員についてはいわゆるノーリターン・ルールを導入すべきである。
(2)理由
 内閣府独立公文書管理監及び内閣府情報保全監察室も内閣府に設置される組織であり,独立性・中立性には問題がある。そこで,少なくとも構成員については独立性・中立性が確保できる措置を講じるべきである。
 24 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「3 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の検証・監察・是正」の「(2)行政機関の長による特定秘密指定管理簿の写しの提出等」について
(1)意見
 内閣府独立公文書管理監に特定秘密に対するアクセス権限が認められていないのは不適切である。
(2)理由
 運用基準案では,行政機関の長は内閣府独立公文書管理監からの特定秘密の提供の求めに対して拒否できることになっている。しかし,これでは特定秘密の指定の適正を検証・監察・是正することは不可能であり,ツワネ原則31~33にも反している。
 25 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「4 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の適正に関する通報」の「(1)通報の処理の枠組み」,「(2)通報の処理」について
(1)意見
 通報窓口が行政機関と内閣府独立公文書管理監に限定されており,いずれの対応も不十分だった場合における通報の手段が無いのは不適切である。また原則として最初に行政機関の通報窓口に通報する仕組みとしていることは,不適切である。
(2)理由
 行政機関及び内閣府独立公文書管理監の通報処理が不十分な場合の仕組みがなければ,特定秘密指定の適正確保は実現できない。
また,行政機関の通報窓口に通報しても適正に処理されるか疑わしい面もあり,通報者も心情的に躊躇してしまうおそれがあるため,少なくとも独立公文書管理監への通報も自由に選択できるような仕組みにすべきである。
 26 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「5 特定秘密保護法第18条第2項に規定する者及び国会への報告」について
(1)意見
報告事項が基本的に件数のみであり,適切な監督が期待できない。
(2)理由
 件数のみの報告では,概要すら知ることができず,報告に基づいた適切な監督を行うことは不可能である。以 上

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平成26年07月23日 東日本大震災後の宮城県沿岸で行われている海岸堤防建設事業の見直し等を求める意見書
ttp://senben.org/archives/5278
東日本大震災後の宮城県沿岸で行われている海岸堤防建設事業の見直し等を求める意見書(PDF版)
東日本大震災後の宮城県沿岸で行われている海岸堤防建設事業の見直し等を求める意見書
宮城県知事   村井 嘉浩 殿
仙台市長    奥山恵美子 殿
宮城県議会議長 安藤 俊威 殿
仙台市議会議長 西澤 啓文 殿
2014年(平成26年)7月23日
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生
意見の趣旨
 1 宮城県及び仙台市は、一定規模を超える海岸堤防事業を行うにあたっては、少なくとも東日本大震災復興特別区域法第72条に規定される特定環境影響評価程度の環境影響評価を義務づけるなど環境影響評価条例を改正すべきである。
2 宮城県は、
 (1) 特に景観上保護すべき地域を景観計画区域に指定したうえで、海岸堤防の復旧、建設にあたっても景観協議会の設置など必要な措置をとったうえで建設を進めること。
 (2) 宮城県は、同県の沿岸地域における海岸堤防を建設するにあたっては、セットバックなどの海岸堤防の建設位置の変更や規模や工法の変更など生物多様性や景観など周辺環境に配慮した計画の再検討を行なうこと。
 (3) 必要性に疑問が呈されている海岸堤防建設については、復興予算の適正な利用・財政の健全性の観点からその必要性を十分に精査し、その計画の撤回も含めた柔軟な対応を行うこと。
 (4) 同県沿岸地方における海岸堤防建設が沿岸住民の利益に重要な影響があることに鑑み、海岸堤防建設についての対立がみられる地域については、関係自治体、周辺住民、漁業者、学識経験者等からなる協議会を設置するなど住民合意に向けた適切な措置をとること。
意見の理由
第1 海岸堤防計画の概要
1 設計津波の水位の設定方法の通知
 東日本大震災による大規模な津波被災を踏まえ、東日本復興構想会議は、「防波堤・防潮堤については、比較的頻度の高い津波、台風時の高潮・高波などから陸地を守る性能を持ったものとして再建する」との見解を示し、2011年(平成23年)6月25日の中央防災会議専門委員会のとりまとめでは、「海岸保全施設等の整備の対象とする津波高を大幅に高くすることは、施設整備に必要な費用、海岸の環境や利用に及ぼす影響などの観点から現実的ではない。」「しかしながら、人命保護に加え、住民財産の保護、地域の経済活動の安定化、効率的な生産拠点の確保の観点から、引き続き、比較的頻度の高い一定程度の津波高に対して海岸保全施設等の整備を進めていくことが求められる。」との見解が示された。かかるとりまとめを踏まえ、同年7月8日、国土交通省及び農林水産省は、海岸管理部局に対し、「設計津波の水位の設定方法等」と題する通知を発し、復興計画策定の基礎となる海岸堤防の高さ決定の基準を示した。かかる基準をもとに、各被災地においても、設計津波の水位を設定することとなった。
2 宮城県における海岸堤防高の設定
宮城県でも、上記基準をもとに、次のような設計津波の水位を設定することとなった。
すなわち、東日本大震災の際に発生した1000年に一度と言われる最大クラスの津波(いわゆるL2津波)は発生頻度が低いうえに、施設整備に必要な費用や海岸の環境・利用に及ぼす影響等の観点から、整備の対象とする津波の高さを大幅に高くすることは非現実的であるとして、住民の生命を守ることを最優先として、住民の避難を軸に、土地利用、避難施設、防災施設などを組み合わせる津波対策をとる。一方、数十年から百数十年単位で発生する津波(いわゆるL1津波)は、L2津波に比べて発生頻度が高いことから、L1津波に対しては、住民の生命を守ることに加え、住民財産の保護、地域経済の安定化などの観点から引き続き海岸堤防の整備を進めることが必要であるとし、海外堤防の整備によって、確実に津波から街を防御するとの考え方をとる。かかる考え方に基づき、宮城県では、明治三陸津波や昭和三陸津波、チリ地震津波などの過去の津波を対象にせり上がりを考慮して、設計津波の水位を設定し、かかる水位を前提に海岸堤防の高さを決定している。宮城県では概ね設計水位から1メートル高く海岸堤防の高さが設定されており、例えば、気仙沼市の本吉海岸では9.8メートル、同市の中島海岸では14.7メートルの堤防高が設定されている。そして、計画による堤防高は、東日本大震災前の既存堤防の高さより大幅に高く設定されており、例えば、本吉海岸の既存堤防高が2.5メートルから5.5メートルであることと比較しても、2倍から4倍近くの高さの規模の堤防が計画されているなど、既存堤防高と比較しても大規模な復旧・建設事業となるだけでなく、岩手・宮城・福島の被災三県で総延長300kmにも及ぶ海岸堤防を復旧する大規模事業となっている。
第2 問題点
 海岸堤防は以上のとおり人命保護・住民財産の保護・地域の経済活動の安定化・効率的な生産拠点の確保という点で極めて重要であるが、海岸堤防の設置のあり方によっては、建設地域の生物多様性や景観等への影響や住民の意思との乖離といった問題もあることから、その設置あたっては以下のように配慮すべきである。
1 生物多様性・景観への配慮
(1) 生物多様性についての問題点
ア 生物多様性の保全が重要な人権課題となっていること
2010年(平成22年)10月、名古屋で生物多様性条約の第10回締約国会議が開催された。同会議において、海洋生物多様性に関しても、重要課題に挙げられ、戦略目標も定められた。同時に、地球上で40億年かけて3000万種にもなった多様な生物の種が、急速に減少しつつあり、このため、地球生態系の一員として他の生物と共存し、食料、医療、科学等に生物を幅広く利用し、その生存と文化を生物の多様性に深く依存してきた人類の存続が危うい状況であるという認識が共有された。このように、生物多様性が失われると、現在及び将来の世代の基本的人権の基礎となる生存の基盤そのものが脅かされるのであるから、生物多様性を守ることは全世界共通の根源的な人権課題である。
イ 計画予定地域の生物多様性
 海岸堤防の建設地域もしくは建設予定地は、岩手県から宮城県北部にかけてはリアス式海岸、宮城県南部から福島県にかけては、蒲生干潟や鳥の海、松川浦など多くの汽水域を含む地域として生物多様性の富んだ豊かな沿岸域となっている。そして同地域には、レッドリスト掲載種を多数育むなど生物多様性の見地から保全上の配慮をすべき地域として2001年(平成13年)に環境省により「日本の重要湿地500選」に選定された湿地が多数存在している(№80ないし№86)。宮城県内だけでも、藻場の豊富な広田湾をはじめ、浅海域としてコクガンの飛来地である南三陸海岸沿岸、アマモが豊富な志津川湾のほか、仙台湾周辺でも蒲生干潟をはじめとした仙台海浜潟湖郡が上記重要湿地に選定されている。震災後に発表された農林水産省の生物多様性戦略(2012年(平成24年)2月2日改訂)でも、「三陸地方は、リアス式海岸に見られる数多くの細い入り江とその奥の狭隘な平地、そこに流れ込む川など、森・川・海のつながりが濃密な地域である。これら地域においては、生物多様性の早期の復活、そして生態系サービスの増進のためには、森から川や海に至る結びつきを考慮して復興に取り組むことが重要である」と復興にあたっての生物多様性に対する配慮が指摘されているところである。特に、岩手県から宮城県北部にかけての三陸海岸沖は、世界三大漁場の1つとして優良な漁場であるほか、リアス式海岸が養殖の好適地であることから、沿岸部の住民は、生物多様性からの恩恵を受けながら生活をしている。
ウ 生物多様性の観点からの懸念
このような生物多様性に富む地域において、原状復旧を超える巨大な海岸堤防を建設することになれば、内陸と沿岸の間での生物や土砂の移動を妨げ、干潟、砂丘、後背湿地といった、海岸付近に固有な生態系やその連続性(エコトーン)の破壊を招きかねない。特に海岸堤防の設置が波打ち際になされると、陸側の砂の移動が抑制され、海岸特有の砂浜などの陸地と海域の境界域を失うこととなる。境界域の消失によってその領域の生態系そのものが破壊されることはもちろん、堤防高が高くなる分沖合いに長く張り出した海岸堤防の土台などにより、底生生物や海中の生態系への悪影響も懸念される。国土交通省策定の「河川・海岸構造物の復旧における景観配慮の手引き(平成23年11月)」においても、堤防設置位置による生態系への影響について同趣旨の指摘を行なっている。
エ 環境影響評価がなされていないこと
 このような影響が懸念される以上、海岸堤防の環境に対する影響を事前に評価することが必要である。にもかかわらず、海岸堤防事業は、環境影響評価法及び宮城県と仙台市の環境影響評価条例の対象事業となっていないため、海岸堤防建設は、その規模にかかわらず環境影響評価の対象外となっている。また、今回の海岸堤防の大部分が復旧事業に該当し、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法上、効用を含めた広義の原型復旧が基本にあるため、その事業規模にかかわらず上記法律及び条例の適用除外とされている問題もある。しかし、今般の海岸堤防が、大幅な高さ増加と規模の拡大をもたらすものであり、沿岸域の生物の生息環境や植生環境といった自然環境のみならず、自然環境に依存する養殖業を中心とした沿岸漁業など水産業等への影響も懸念される以上、環境影響評価を行なうべきである。もっとも、海岸堤防の建設が周辺地域の復興事業と密接に関連していることから、環境影響評価条例で通常想定している環境影響評価を行なうこととなれば、その手続に多大な時間を要することともなり、被災地域の復興遅延を招来するという問題も存する。そこで、今般の海岸堤防建設事業の環境影響評価としては、現在東日本大震災復興特別区域法第72条によって、一定規模の土地区画整理事業や鉄道事業等いわゆる特定復興整備事業で実施されている特定環境影響評価の方法と同様の迅速な方法での環境影響評価を行なうべきである。すなわち、特定環境影響評価は、迅速な復興事業への着手という観点から通年または四季の現地調査等、特定環境影響評価の実施に当たって時間を要する規定をおかず、特定環境影響評価の項目の選定又は調査、予測及び評価の手法の選定に当たっては専門家等から助言を受けることが必須とするなどの制度であり、迅速な事業の遂行と環境保全の調和を図るものである。したがって、環境影響評価条例を制定している宮城県及び仙台市は、少なくとも、特定環境影響評価制度のような簡易迅速な環境影響評価制度を導入するなどして、一定規模の海岸堤防事業を環境影響評価の対象とするよう条例を改正すべきである。そして、その対象となるべき規模は、鉄道事業のルート移設においては、事業規模が7.5㎞以上にわたる場合には特定環境影響評価の対象となることから、海岸堤防事業における簡易迅速な環境影響評価制度についても、参考とされるべきである。
(1) 景観からの問題点
ア 計画予定地が重要な自然景観を有すること
震災前から三陸沿岸は、岩手県側は陸中海岸国立公園、宮城県側は南三陸金華山国定公園として指定され、2013年(平成25年)には、青森県南部から宮城県北部にわたるリアス式の三陸海岸一帯が三陸復興国立公園に制定された。同地域の北部は「海のアルプス」とも賞される豪壮な大断崖、南部は入り組んだ地形が優美なリアス海岸が続いているほか、海岸にはウミネコやオオミズナギドリなどの海鳥の繁殖地があり、野生生物を間近に観察することもできる景勝地となっている。宮城県気仙沼市にある小泉海岸及び大谷海岸はいずれも、海岸堤防の建設予定地となっているところ、震災前は利用者数が多いことや水質が良い水辺を基準として選定される環境省選定の「快水浴場百選」にも指定されている。これらの地域の自然景観は、地域住民共有の無形財産であるだけでなく、同地域の観光振興にも重要な役割と果たしている。
イ 景観保護の見地から必要な措置をとるべきこと
 しかし、同地域における海岸堤防建設を行なうこととなれば、巨大なコンクリート構造物で海岸を覆うことともなりかねず、砂浜の消失など同地域の誇る美しい景観を害することとなり、ひいては地域の観光業への影響も懸念されている。そもそも、三陸海岸にみられるような良好な景観は、美しく風格のある国土の形成と潤いのある豊かな生活環境の創造に不可欠なものであることにかんがみ、国民共通の資産として、現在及び将来の国民がその恵沢を享受できるよう、その整備及び保全が図られなければならない(景観法2条1項)。そして、国は、同法が定める基本理念に基づき、良好な景観の形成に関する施策を総合的に策定し、実施する責務を有し、地方公共団体も、良好な景観の形成の促進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その区域の自然的社会的諸条件に応じた施策を策定し、実施する責務を有する。このような同法の趣旨からすれば、宮城県は、三陸沿岸地域のうち、特に景観上保護すべき地域を景観計画区域に指定したうえで、海岸堤防の復旧、建設にあたっても景観協議会の設置など必要な措置をとったうえで建設を進めるべきである。
(3) 海岸堤防の位置や規模や工法の再検討
 国土交通省策定の前記景観配慮の手引きにおいては、海岸堤防の設置にあたっては、景観や生態系への配慮が求められるとの視座に立ち、砂浜に堤防を設置した場合、背後の砂の移動が抑制され、海岸特有のエコトーンの形成が困難となることが指摘され、生態系の保全及び景観保全の観点からは砂浜や後背湿地よりさらに陸側に海岸堤防を設置すること(セットバック)が推奨されている。
また、同手引きでは、海岸堤防の規模、延長、構造等によっては視覚的な圧迫感や周辺環境のなかでの違和感を与える可能性があるため、堤防の長大な印象の軽減等、視覚的インパクトを極力低減するとともに、周辺空間との調和を求めている。したがって、宮城県は、同県の沿岸地域における海岸堤防を建設するにあたっては、セットバックなどの海岸堤防の建設位置の変更や規模や工法の検討など生物多様性や景観など周辺環境に配慮した計画の再検討を行なうべきである。
2 必要性に疑問のある海岸堤防の問題
(1) 復興予算の適正な利用・財政の健全性の観点
 今般建設予定の海岸堤防の中には、その必要性について疑問を呈されているものも存在する。たとえば、宮城県気仙沼市小泉地区(中島海岸)については、宮城県内で最も高い最大14.7メートル、幅91メートルの海岸堤防が約2キロメートルにわたって計画されている。しかし、背後地に存在した住宅は高台に移転し、今後住宅の建築は認められていない。農地としての利用の可能性はあるものの、農地を守るためにこのような巨大な海岸堤防が必要なのか、住民からは大きな疑問の声が上げられている。このようなそもそも必要性に乏しいと考えられる海岸堤防については、復興予算の適正な利用の観点から問題があるだけでなく、今後維持管理費を負担することになる将来の宮城県の財政の健全性の観点からも大いに問題があると言わざるを得ない。実際に、宮城県では、必要性に乏しいと考えられる宮城県塩竈市の浦戸諸島にある無人島についての海岸堤防について見直しを検討するに至っている。
(2) このように、復興予算の適正な利用・財政の健全性の観点からは、現在の海岸堤防の計画に必ずしも必要性が認められないと考えられるものも存在する。このような海岸堤防については、その必要性や費用対効果を十分に精査し、計画の撤回も含めた柔軟な対応を行うべきである。
3 合意形成上の問題点
(1) 合意形成の必要性
 今般の海岸堤防建設が海岸事業として実施する場合のみならず、災害復旧事業として実施する場合であっても、既存の海岸堤防の原形復旧の程度を超える巨大事業となり、今後の維持費等の面での地元自治体での将来世代への多大な費用負担の問題を抱えるだけでなく、上記のとおり生物多様性からの懸念や、漁業などの沿岸資源を利用した産業、景観や観光資源への影響等、防災・減災の観点を踏まえれば、海岸堤防の建設が地域住民の利益に多大な影響があることは明らかである。したがって、地域住民への十分な説明と合意は極めて重要である。
(2) 現在の法制度
 海岸事業として新たな海岸堤防を建設する場合は、海岸保全基本計画の策定にあたり、海岸法2条の3に基づき、「あらかじめ公聴会の開催等関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない」とされていることからも、海岸堤防に関する海岸保全基本計画策定において、住民の意見を反映させることが重要である。一方、海岸堤防建設事業が復旧事業として行なわれる場合は、海岸復旧方針(案)の作成にあたって、住民合意や住民参加の法的担保がない。もっとも、宮城県では、復旧事業としての海岸堤防建設が周辺住民へ多大な影響のあることに鑑み、海岸復旧方針(案)の作成後ではあるが住民説明会を実施してきた。
(3) 住民説明会の実態
 今般の海岸堤防の建設に際しては、災害復旧事業としての実施であるにせよ、海岸事業として実施であるにせよ、多くの地区において震災から2年も経過しないうちに住民説明会が実施されている。しかし、東日本大震災直後から2年程度は、震災からの復旧すらままならない状態であったことや、余震が頻繁に発生するなどして津波に対する極度の恐怖心があったことなどから、将来の津波防災に関して冷静な考えや議論ができない時期だったと考えられる。また、環境影響評価もなされていないため、海岸堤防の建設が周辺の自然環境にいかなる影響を与えるか、という今般計画されている海岸堤防の影響についての判断の材料が十分に提供されてこなかった。住民説明会では、海岸堤防に関する複数の提案を示して合意を図っているプロセスが存せず、行政側が設定した海岸堤防の高さや位置等について住民から了解をもらうという内容であった。また、多くの説明会では海岸堤防建設以外の議題とともに住民に提示された説明会であることに加え、海岸堤防建設について、地域住民との合意書の取り交しはもちろん挙手制による意思決定なども実施されているわけでもなく、地域によっては住民の総意があったとは評価できない場合も存する。例えば、2012年(平成24年)10月の住民説明会で海岸堤防について合意が得られたとみられていた気仙沼市本吉町小泉地区では、海岸堤防に対する住民の反発もあり、2013年(平成25年)11月下旬に、再度住民説明会が開催された。同説明会では、海岸堤防建設に関する賛成派と慎重派の間で意見が割れた状況であったところ、終了間際の自治体幹部職員の一言で、賛成派が大きく拍手を行なったことで、「合意形成」とみなされた事例が報告されている。
(4) 海岸堤防の建設は、後世にわたって地域住民と海とのつき合い方を決定づけるものである。したがって、海岸堤防建設における地域住民との合意は必要不可欠であり、住民合意の手続も慎重に行なう必要がある。したがって、現在の計画による海岸堤防の建設が問題となっている地域については、県や市、学識経験者、周辺住民の有志からなる協議会を設置し、協議会による議論に基づき複数の案を提示するなどして合意形成を行っていくべきである。この点、宮城県は、2014年(平成26年)5月22日、気仙沼市小泉地区において、住民ワーキンググループと有識者検討会を設ける方針を示した。このような住民との協議の場を設置する方針を示したことは一定の評価に値する。しかし、協議会の設置は、1地区にとどまるべきではなく、また協議会自体がアリバイ作りに終始する懸念もある。したがって、協議の場は、これまでの「住民合意」が疑わしい地域においても設置すべきであるし、協議会の構成員やその手続等についても、実質的な合意形成の場となるよう配慮すべきである。したがって、同県沿岸地方における海岸堤防建設が沿岸住民の利益に重要な影響があることに鑑み、海岸堤防建設についての対立がみられる地域については、関係自治体、周辺住民、学識経験者からなる協議会を設置するなどして、住民合意に向けた適切な措置をとることを求める。
第3 結論
よって、当会は宮城県及び仙台市に対し意見の趣旨記載の対応を求める。以上

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平成27年02月21日 通信傍受の対象拡大及び手続簡略化並びに捜査・公判協力型協議・合意制度の法制化に反対する決議
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法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会は,2014年(平成26年)7月9日,「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」を決定した。この答申案は,同年9月18日開催の法制審議会第173回会議において全会一致で採択された上,法務大臣に答申された(以下,「本答申」という。)。本答申は,法案化され,2015年(平成27年)通常国会に上程される可能性が高い。本答申に示された通信傍受(盗聴)の対象拡大及び手続簡略化並びに捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引)の法制化については重大な問題がある。通信傍受(盗聴)は,捜査対象物が特定されず事前の通知もされない点で憲法の定める令状主義に違反するおそれが強い上,通信の秘密やプライバシー権を侵害する捜査手法であることから,現行法においては極めて厳格な要件のもとでのみ認められてきたものである。具体的には,組織的な重大犯罪のみを対象とし,かつ捜査機関の違法または濫用的な捜査を防止するために通信事業者の立会が要件とされていたのである。ところが,本答申は,通信傍受の対象を,傷害・窃盗・詐欺・恐喝等の一般的な犯罪にまで拡大することとし,さらに通信傍受を行う際の通信事業者による立会を不要とする手続簡略化を行うこととしている。これは,憲法に違反する疑いが極めて強い法改正であり許されない。また,本答申には,一定の犯罪(経済犯罪など)について他人の犯罪事実を申告した者に対して不起訴処分等の利益を与える捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引)の導入が示されている。しかし,この制度は「引っ張り込み(自己に有利な結果を得るために他人の罪をねつ造し,無実の他人を陥れること)」の危険を大幅に高め,それによる誤判・えん罪を増加させるものである。本答申の案を作成した法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会は,元々は足利事件や村木事件(厚生労働省郵便不正事件)など近年明らかになった誤判・えん罪事件を受けて,捜査機関の自白強要や証拠ねつ造など違法な捜査を防止し,取調べの適正化等を目指すべく設置された部会であったはずである。にもかかわらず,取調べの可視化や証拠開示がごく限定的にしか行われず,かえって上記のような,憲法違反の通信傍受法改正,誤判・えん罪の危険をかえって高める捜査・公判協力型協議・合意制度の導入が示された答申がなされたことは誠に遺憾である。当会は,通信傍受の対象犯罪拡大及び手続簡略化並びに捜査・公判協力型協議・合意制度の法制化について断固反対し,被疑者・被告人の権利保障を実質化するような刑事司法の実現に向けて邁進する所存である。以上のとおり決議する。
2015年(平成27年)2月21日 仙台弁護士会 会長 齋藤拓生
提案理由
第1 法制化への流れ
1 法制審議会特別部会設置の経緯
 志布志事件,氷見事件,足利事件,村木事件(厚生労働省郵便不正事件),布川事件等の,えん罪事件や捜査機関の一連の不祥事を契機として,捜査の在り方等に対する大幅な見直しの必要性に注目が集まるようになった。2010年(平成22年)法務省に設置された「検察の在り方検討会議」は,2011年(平成23年)3月31日,「検察の再生に向けて」と題する提言を発表した。同提言は,「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直し,制度としての取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するため,直ちに,国民の声と関係機関を含む専門家の知見とを反映しつつ十分な検討を行う場を設け,検討を開始するべきである」と結論づけた。法務大臣は,同提言を受け,2011年(平成23年)5月18日,法制審議会に対して「近年の刑事手続をめぐる諸事情に鑑み,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや,被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など,刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について,御意見を承りたい。」とする諮問第92号を発した。同諮問を受け,法制審議会は,2011年(平成23年)6月6日に開催された法制審議会第165回会議において,同諮問について調査・審議するための「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「特別部会」という。)の設置を決定した。
2 特別部会による基本構想の内容
 特別部会は,設置以来約1年半の審議期間を経て,2013年(平成25年)1月29日の第19回会議において,「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」を発表した。それは,従来の取調べ依存型捜査には「ひずみ」が生じているので,捜査の適正確保という観点で「ひずみ」を修正する必要があるとする趣旨のものであり,言い換えれば,取調べ依存型捜査の抜本的な見直しについては消極的な内容のものであった。また,取調べの可視化等のほかに「通信傍受の拡大・会話傍受」「刑の減免制度・協議・合意制度及び刑事免責制度」を盛り込んだ。取調べの可視化により供述を獲得することが困難となることを理由に,人権侵害の危険の増大を考慮せずに,捜査機関の証拠収集をより容易にするかのような姿勢までをも示していた点で,きわめて問題の多い内容であった。
3 特別部会の事務当局試案
 特別部会の審議において前記基本構想の問題点は殆ど修正されることはなく,2014年(平成26年)4月30日に事務当局試案が取りまとめられた。「基本構想」の段階から改善されたことは,会話傍受制度及び被告人を証人とする制度の導入が示されなかったことである。もっとも,被告人の虚偽供述禁止規定を新設することは示されていた。
4 法制審議会の答申
 2014年(平成26年)7月19日,特別部会において「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」(答申案)が取りまとめられた。前記の事務当局試案から改善されたことは,被告人の虚偽供述禁止規定の導入が見送られたということくらいであった。答申案は2014年(平成26年)9月18日開催の法制審議会第173回会議において全会一致で採択された上,法務大臣に答申された(以下,「本答申」という。)。
5 法制化の危険
 本答申に至る経緯は上記のとおりである。「基本構想」の段階で指摘されていた問題点,すなわち,かえって捜査機関の権限が不当に拡大され,より多くの誤判・えん罪事件及び人権侵害が発生しうるという問題点については,何ら改善されていない。本答申は法案化され,早ければ2015年(平成27年)の通常国会に上程される可能性が高い。
第2 通信傍受の対象拡大及び手続簡略化について
1 通信傍受の対象拡大及び手続簡略化の内容
 本答申には,「通信傍受の合理化・効率化」として,犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下,「通信傍受法」という)の適用対象を,現住建造物放火,殺人,傷害,逮捕・監禁,略取・誘拐,窃盗,強盗,詐欺,恐喝等にまで拡大し,さらに現行の通信傍受法が通信傍受時における通信事業者の立会いを要件として規定している点を簡略化し,捜査機関が通信事業者の立会いなくして通信を傍受できる制度が示されている。
2 通信傍受それ自体に憲法違反の問題があること
現行の通信傍受法が定める通信傍受それ自体が,憲法が国民に保障する通信の自由,思想の自由,言論の自由,結社の自由,プライバシー権等の基本的人権を侵害する「盗聴」であり,かつ,通常の捜査とは異なり,事前に捜査の対象者・対象物を特定した令状が呈示されない点で憲法第35条が定める令状主義に違反している疑いが強いものである。
3 対象犯罪の拡大の問題点
 通信傍受については前記の問題があるため,通信傍受法制定前の最高裁判所1999年(平成11年)12月16日判決は,通信傍受について「重大犯罪に限り」例外的に許される捜査手法であると位置づけている。2000年(平成12年)の通信傍受法制定の際にも,通信傍受自体に問題があるという反対意見が多く,そのために一部の組織的重大犯罪に限定して,補充的に,通信事業者の監視の下で行われる捜査手法にとなったのである。そのような通信傍受について,対象犯罪を現行法よりも広く拡大することは憲法違反となる疑いが強く,許されるものではない。通信傍受捜査が物証(メモ等)よりも直接的に情報そのものを取得する捜査手法であることに鑑みれば,現行通信傍受法第3条の「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」との要件(補充性の要件)も今後緩やかに解釈される可能性は否定できず,補充性の要件があるとしても,通信傍受について,不当な人権侵害の危険はないとすることはできない。また,本答申に示された組織性要件(「当該犯罪があらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われたと疑うに足りる状況があるときに限る」)であるが,その文言は,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の「団体」の定義における「組織」要件(「指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体」)の文言とは異なっており,抽象的な要件であって,広範な解釈の余地を残す。事前共謀が存在することが疑われる事例のほぼ全てにおいて通信傍受が可能となる結果すら招来しかねないものであり,違法不当な人権侵害を防ぐための要件としては極めて不十分である。
4 手続簡略化の問題点
 通信傍受時の通信事業者の立会は,違憲の疑いが強い通信傍受について,不十分ながらも捜査機関による通信傍受の濫用を防止し,捜査の適正さを担保するための制度である。傍受時の通信事業者の立会を不要とするならば,通信傍受制度が憲法違反となる疑いがきわめて強い。本答申は通信事業者の代替として,対象となる通信を,裁判所職員が発行する電子鍵により暗号化する制度を示しているが,これは単なるデータ開封用のパスワードに類するものであり,通信事業者の代替として捜査機関に対する監視・抑制の機能を果たし得るものではない。通信事業者の立会を不要とする法改正もまた許されない。
5 通信傍受制度の存在自体が各種人権に対する萎縮効果を与え得ること
通信傍受の対象を拡大し,手続を簡略化すれば,刑事訴訟手続の領域外にも深刻な結果を招来しうる。国民は,自分の知らないところで捜査機関による通信傍受を受け,通信の秘密やプライバシー権を侵されるかもしれないという状況下に常に置かれることになるので,少しでも捜査機関からの監視対象となりそうな個人や団体とは通信をしない,或いは,捜査機関に目を付けられそうな言動や表現はしないという行動を選択する,すなわち,憲法で保障されている各種人権の行使に対して抑制的になることを強いられる可能性が高い。このように,通信傍受の拡大及び手続簡略化は,刑事被疑者・被告人の人権擁護との関係でのみ問題となるのではなく,表現の自由,知る権利,結社の自由等の各種人権の行使に対して萎縮効果をもたらしかねないものであり,憲法上の大きな問題がある。
6 小括
 通信傍受の対象拡大及び手続簡略化は,憲法で保障された通信の秘密,プライバシー権を侵害し,さらに国民の各種人権に対する萎縮効果をもたらしかねないものであり,決して許されるものではない。
第3 捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引)
1 捜査・公判協力型協議・合意制度の内容
 本答申が示す捜査・公判協力型協議・合意制度(以下,「協議・合意制度」という)は,検察官が,特定犯罪について,必要と認めるとき,被疑者又は被告人との間で,被疑者又は被告人が他人の犯罪事実を明らかにするため「真実の供述」その他の行為をすることと引き換えに,当該被疑者・被告人の被疑事件又は被告事件について不起訴処分,特定の求刑その他の行為をする旨を合意できるものとする制度である。自己の犯罪事実の申告を有利に取り扱うものではないが,捜査機関の捜査に協力する見返りとして自己の刑事事件について便宜を受けることを可能とするものであり,司法取引制度の一種である。
 2 新たな虚偽自白とそれによるえん罪が生まれる危険が非常に高い協議・合意制度の法制化は,虚偽の供述を誘引するおそれがあり,かえって新たなえん罪を生み出す危険性が高い。そもそも共犯者供述については,「引っ張り込み(自己に有利な結果を得るために他人の罪をねつ造し,無実の他人を陥れること)」の危険があり,虚偽供述が生み出されるおそれの大きいことが,以前から指摘されてきた。協議・合意制度は,不起訴など誘引力の強い約束によって,共犯者による「引っ張り込み」を助長するものであり,本質的に,虚偽の供述を生み出す危険性を内在するものである。しかるに,同制度においては,被疑者又は被告人によって虚偽の供述がなされる危険を防止するための対策は十分に検討されていない。協議・合意制度に賛成する立場からは,協議・合意の過程に弁護人が関与するので供述の真実性が担保されるかのような意見が述べられている。しかし,関与が想定されているのは,協議・合意を利用しようとする側の被疑者・被告人の弁護人であり,引っ張り込みの危険にさらされる側の弁護人ではない。また,協議・合意を利用しようとする側の弁護人においても,被疑者・被告人が他人の犯罪事実を申告しようとしたときに,被疑者・被告人の利益と,引っ張り込みの危険,ひいては誤判・えん罪を生み出す危険とをどのように判断するのか,困難な問題が生じる。このように,弁護人が関与したからといって制度に内在する問題点が解消されるわけではない。本答申は,合意の当事者である被疑者又は被告人が虚偽供述等をした場合,当該行為を処罰の対象とすることで真実性の担保となると考えているようであるが,問題は虚偽の供述により誤判・えん罪その他不当逮捕等の人権侵害が生まれることであり,供述者に事後的な不利益を課すことによっては,虚偽供述の発生を未然に防ぐことは困難である。処罰では真実性の担保たり得ない。そればかりか,かかる制度設計のもとでは,合意により一旦虚偽の供述をした被疑者または被告人が,良心の呵責により翻意して真実の供述をしたいと考えても,処罰をおそれて,もはや後戻りをすることができなくなるといった事態が生じ得るので,この点でも問題が大きい。
3 小括
 協議・合意制度の法制化には,重大な問題がある。その法制化は捜査機関の捜査権限をいたずらに拡大するものでしかない。協議・合意制度は,誤判・えん罪の防止にとって有益でないばかりか,有害である。
第4 結論
 当会は,本答申の答申案を取りまとめた法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の審議が,取調べの適正化という本来の目的から外れて,かえって捜査権限を強化する内容となりつつあることを問題視し,2013年(平成25年)11月14日に「法制審議会新時代の刑事司法特別部会に対する意見書」を,2014年(平成26年)5月16日に「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会『事務当局試案』に関する会長声明」を,同年7月23日に「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会における答申案についての会長声明」を発し,特別部会の各段階における基本構想,事務当局試案,答申案の問題点を指摘してきた。東北弁護士会連合会も,2014年(平成26年)5月10日に「『通信傍受の合理化・効率化』に反対する会長声明」を,同年6月7日には「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会『事務当局試案』に関する会長声明」を発し,通信傍受の対象拡大・手続簡略化等に反対の意思を表明している。同様の指摘は,各地の弁護士会や有識者等からも数多くなされている。しかし,本答申の内容は,本来の目指したはずの取調べの可視化については,裁判員裁判対象事件の取調べに加えて検察独自捜査事件における検察官取調べという極めて狭い範囲の可視化に限定されている。そして,証拠開示も証拠の詳細が示されない一覧表の交付に留まり,被告人の権利保障の実質化という見地からは不十分と言わざるを得ないものになっている。他方,通信傍受の対象拡大及び手続簡略化や捜査・公判協力型協議・合意制度の導入など捜査権限を強化するものとなっており,基本的人権の擁護という見地から許されない内容となっている。当会は,通信傍受の対象犯罪拡大及び手続簡略化,並びに,捜査・公判協力型協議・合意制度の法制化について断固反対し,取調べの全過程の全面可視化,全面的証拠開示制度の導入など,被告人の権利保障を実質化するための刑事司法の実現に向けて邁進する所存である。以上

平成26年08月19日 「特定秘密の保護に関する法律施行令(案)」に対する意見書
ttp://senben.org/archives/5493
2014年(平成26年)8月19日
内閣官房特定秘密保護法施行準備室「意見募集」係 御中
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生
仙台市青葉区一番町2丁目9番18号
電話 022-223-1001
第1 はじめに
特定秘密保護法は,国民の知る権利やプライバシー権等の人権を侵害し,国民主権にも抵触する重大な問題をはらんでいる。したがって,同法は廃止されるべきであり,少なくとも抜本的な見直しがないままの施行は許されない。そして,法律自体に憲法上の問題がある以上,それに基づく施行令も制定されるべきではない。また,この点を置くとしても,2014年7月24日付けで,内閣官房特定秘密保護法施行準備室において公表され,意見募集がなされている「特定秘密保護法に関する法律施行令(案)」(以下「施行令案」という。)にも看過し難い問題があるため,以下のとおり意見を述べる。
第2 意見
1 総論
そもそも法律で定めるべき重要事項を政令及び運用基準において定めているという法形式自体に問題がある。政令及び運用基準は,法律の委任を受けて政府が定めるとされているが,白紙委任に等しい項目もあり,国民の権利義務に直結する重要事項は法律で定めるべきとの原則に照らしても問題がある。また,政令や運用基準が,法律と異なり,国会の議論を経ることなく改廃できる点においても大きな不安が残る。
 2 施行令案第3条第1号(法第3条第1項ただし書の政令で定める行政機関の長)について
(1)意見
法務省及び金融庁を施行令案第3条第1号に加えるべきである。
(2)理由
 2012年12月31日時点で法務省が保有していた特別管理秘密文書等の件数は,0件であった(平成25年3月12日衆議院議員赤嶺政賢君提出 特別管理秘密及び秘密取扱者適格性確認制度に関する質問に対する答弁書)。したがって,法務省については特定秘密の指定機関に加える必要性がない。同様に,2012年12月31日時点で金融庁が保有していた特別管理秘密文書等の件数は,49件に過ぎず(同上),特定秘密の指定機関に加える必要性は乏しい。また,同庁が国家の安全保障に関する情報を取り扱っているとも考えがたい。
 3 施行令案第3条第2号(法第3条第1項ただし書の政令で定める行政機関の長)について
(1)意見
原子力規制委員会を施行令案第3条第2号に加えるべきである。
(2)理由
 原子力規制委員会は,国民の生命・健康の安全に重大な影響を及ぼす原子力発電に関する情報を扱っている。同委員会が特定秘密の指定機関となり,これらの情報を特定秘密に指定できるようになると,これらの情報にアクセスしようとする取材活動までもが刑事罰の対象になりかねず,国民が知るべき情報を入手できなくなってしまうおそれがある。公開するのが好ましくない情報については情報公開法の不開示情報該当性の問題として扱うことで十分であり,情報漏えい策としては公文書管理システムの適正化を徹底することで対応できる(日弁連2013年10月23日付け「秘密保護法制定に反対し,情報管理システムの適正化及び更なる情報公開に向けた法改正を求める意見書」参照)。
4 特定秘密保護法第4条第4項第7号について
(1)意見
 施行令案には,特定秘密保護法第4条第4項第7号の政令で定める情報が規定されていないが,今後も規定すべきではない。また,法第4条第4項第7号は削除すべきである。
(2)理由
 特定秘密保護法第4条第4項第7号は,同項第1号ないし第6号以外の情報でも政令で定めることができるとしている。しかし,これでは60年を超えて秘密指定できる情報の範囲が無限定に広がりかねない。したがって,今後も同号に基づき政令で定める情報を規定すべきではない。
また,そもそも同号のように政令に白紙委任するような規定は国会によるチェックを無にしてしまうものであって適切ではないから,このような規定は削除すべきである。
5 施行令案第12条(行政機関の長による特定秘密の保護措置)について
(1)意見
 特定秘密の保護措置は,政令や運用基準に委ねるのではなく特定秘密保護法で明記すべきである。また,施行令案第12条第1項第10号は特定秘密の漏えいのおそれがある緊急事態に際して特定秘密文書等の廃棄を定めているが,これは法律の委任の範囲を逸脱するものであるから削除すべきである。
(2)理由
 特定秘密の保護措置は,特定秘密の保護を目的とする法律の中心的な事項であるから,本来法律で明記すべき事項である。にもかかわらず,政令や運用基準に委ねることは,国会によるチェックを無にしてしまうものであって適切ではない。また,施行令案第12条は特定秘密保護法第5条第1項に基づくものであるところ,同項では政令への委任の範囲として特定秘密文書等の廃棄にまでは言及していない。にもかかわらず,政令で廃棄を規定することは法律による委任の範囲を逸脱するものである。
6 施行令案第21条(評価対象者に対する告知等)について
(1)意見
書面による告知及び同意は,包括的なものになるおそれがあり適切ではない。
(2)理由
 施行令案第21条は,評価対象者に対する告知及び同意は「書面により行う」としている。しかし,同意書は適性評価の調査実施前に取り付けることとされているところ,運用基準案で示されている同意書の内容は包括的なものであり,具体性に欠ける。これではどのような事項について,どのような調査(調査のためにどこに照会するのか,どのような内容の調査をするのか等)が具体的に分からないまま同意書提出を余儀なくされてしまいかねず,プライバシー保護としては不適切である。以 上

2255 ら特集10仙台弁護士会⑤6

平成26年11月13日 秘密保護法施行令等の閣議決定に対する会長声明
ttp://senben.org/archives/5627
本年10月14日、特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)の施行令及び運用基準等、並びに施行日を本年12月10日とすることが閣議決定された。当会は、2013年12月13日付会長声明及び本年2月22日付総会決議により、秘密保護法について、①特定秘密の範囲が広範かつ不明確で、恣意的な秘密指定がなされるおそれがあるため、知る権利の保障や国民主権の原理にもとること、②秘密指定等の適正をチェックする独立した第三者機関が存在しないこと、③処罰範囲も広範かつ不明確であり、罪刑法定主義の観点からも重大な疑義が存し、国民やメディアにも深刻な萎縮効果をもたらすこと、④適性評価制度により国民のプライバシーや思想・良心の自由を侵害されるおそれがあること、⑤被疑者・被告人の防御権及び裁判を受ける権利を侵害しかねないこと、などを指摘し、同法は廃止しか方法がないことを訴えた。政府は、本年7月24日、施行令(案)及び運用基準(案)等を公表し、パブリックコメントを実施し、同パブリックコメントを受けて運用基準(案)等を一部修正したが、当会が指摘した上記各問題点は、そもそも秘密保護法そのものの持つ欠陥であり、この運用基準案等及びその修正を考慮しても、上記各問題点を克服できていない。即ち、
① 秘密保護法の別表及び運用基準を総合しても、秘密指定できる情報は極めて広範であり、恣意的な秘密指定の危険性が解消されていない。
② 政府の恣意的な秘密指定を防ぐためには、すべての特定秘密にアクセスすることができ、人事、権限、財政の面で秘密指定行政機関から完全に独立した公正な第三者機関が必要であることは国際的な常識であるが、同法が規定している独立公文書管理監等の制度にはこのような権限と独立性が欠けている。即ち、独立公文書管理監は一名しかおらず、しかも同管理監を補佐する情報保全監察室のスタッフは少人数であるうえ、秘密指定機関へのリターンを認めないこと、すべての秘密開示のための権限を認めること、内部通報を直接受けられるようにすることなどは全く実現していない。しかも、同管理監は、不正に運用されていると判断すれば、当該大臣に指定の解除を求めることができるが、当該大臣はこれを拒否できるとされており、実効性はない。
③ 秘密保護法には、違法・不当な秘密指定や政府の腐敗行為、原発事故など大規模な環境汚染の事実等を秘密指定してはならないことを明記すべきであるのに、このような規定がない。
④ 特定秘密を最終的に公開するための確実な法制度がなく、多くの特定秘密が市民の目に触れることなく廃棄されることとなる可能性がある。
⑤ ジャーナリストや市民を刑事罰の対象としてはならないことは、「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)にも明記されているが、それが実現されていない。などの重大な問題を抱えたままである。
よって、当会は、国民の知る権利と民主主義を危機に陥れ、国民主権をないがしろにする秘密保護法を廃止すべきこと、同法の廃止までの間施行令及び運用基準等の施行を中止すべきであることを強く訴える。
2014年(平成26年)11月13日仙台弁護士会会長齋 藤 拓 生

平成26年09月05日 死刑執行に断固抗議し,死刑執行を停止するとともに,死刑に関する情報を広く公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を求める会長声明2014年(平成26年)9月5日仙台弁護士会 会長 齋 藤 拓 生
ttp://senben.org/archives/5529

平成26年08月27日 宮城県消費者教育推進計画策定に関する意見書
ttp://senben.org/archives/5524
平成26年8月27日
宮城県知事 村井嘉浩  殿
宮城県消費生活審議会 御中
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生
宮城県消費者教育推進計画策定に関する意見書
第1 意見の趣旨
 1 「宮城県消費者教育推進計画」の策定に関し、当会平成26年6月12日付「要請書」における「要請の趣旨」記載の内容を踏まえ、再検討するよう求める。
 2 「宮城県消費者教育推進計画」の重要性に鑑み、専門の事項を調査させるため専門委員を置くなどの方策を検討するよう求める。
第2 意見の理由
1 「宮城県消費者教育推進計画(素案)」の発表
 平成24年12月に消費者教育の推進に関する法律(以下「推進法」)が施行されたことを受け、宮城県においても、宮城県消費生活審議会において消費者教育推進計画(以下「推進計画」という)を策定していくことが決定された。宮城県は、平成26年7月24日に開催された消費生活審議会において、「宮城県消費者教育推進計画(素案)」(以下「素案」という)を発表した。
2 当会平成26年6月12日付「要請書」で指摘した事項が検討されていないこと
当会は、素案の発表に先立ち、宮城県に対し、平成26年6月12日付「要請書」(以下「当会要請書」という)において、推進計画の策定にあたり、下記の事項を要請した。

 (1)推進法の趣旨と「消費者市民社会」の意義を普及、啓発する方策について検討し、推進計画に盛り込むこと
(2)消費者庁作成のイメージマップ等を活用して、①推進計画策定の前提として現状分析を十分に行い、②具体的なアクションプランを策定すること、③推進計画策定後の実施状況の検証・検証方法についても推進計画に盛り込むこと
(3)消費者教育等の担い手の育成や、学校における消費者教育の充実等について、理由中に例示するような具体的方策を検討し、推進計画に盛り込むこと
(4)消費者問題を扱う宮城県内の関係諸団体の意見を十分に反映することしかし、以下に述べるとおり、素案においては、当会要請書で指摘した重要な事項が十分に検討されているとは言い難く、推進計画の内容としては極めて不十分であると認められるので、再検討を求める。
3 「消費者市民社会」の意義の普及、啓発に関する方策について再検討が必要である
(1)「消費者市民社会」の意義の普及、啓発に関する具体的方策
 推進法では、その基本理念において、「消費者教育は、消費者が消費者市民社会を構成する一員として主体的に消費者市民社会の形成に参画し、その発展に寄与することができるよう、その育成を積極的に支援することを旨として行われなければならない」と定められている(同法第3条第2項)。このような「消費者市民社会」の意義やその形成・発展に参画・寄与していく消費者の育成は、被害対応を中心に考えられていたこれまでの消費者教育から一歩進んだ、新たな視点を提唱するものである。しかし、このような「消費者市民社会」を目指す消費者教育は、一般にはまだ馴染の薄い内容である。従って、当会要請書において、まずはこの推進法の趣旨や「消費者市民社会」の意義をいかに普及、啓発していくかが重要であり、これを推進計画の重点課題として掲げるとともに、その具体的方策を検討し、推進計画の中にも盛り込むべきであると要請した。ところが、素案においては、「第1章 消費者教育推進計画に当たって」の「第1節 計画の背景と趣旨」において、わずかに、「消費者市民社会」の形成を目指して「宮城県消費者教育推進計画」を策定し、各関係機関との連携のもと消費者教育の更なる推進を図ること、「消費者の自立」「消費者市民社会」の形成という観点から、消費者教育推進のための人材育成に力を入れていく必要があることが示されているに過ぎず(素案1頁)、「消費者市民社会」の意義を普及、啓発していくための具体的方策が盛り込まれているとは言い難い。上記の通り、「消費者市民社会」の形成・発展に参画・寄与する消費者の育成を支援することが推進法の基本理念であるから、推進計画においては、「消費者市民社会」の意義の普及、啓発のための具体的方策を盛り込むことが不可欠というべきであり、この点について素案を再検討すべきである。なお、「京都府消費者教育推進計画」においては、「消費者市民社会の構築に向けた気運づくり」として、「『消費者市民社会』等に係るキャッチコピーの募集・普及」等の具体的施策が盛り込まれており参考になる。
(2)「消費者の責務」でないことへの注意
 素案においては、「本計画における『消費者の自立』とは『消費生活に関する知識を修得し、これを適切な行動に結びつけることができる実践的な能力』(法第3条)を持った消費者が『消費者市民社会を構成する一員として主体的に消費者市民社会の形成に参画し、その発展に寄与』(法第3条第2項)する状況となることを指します」と記載されているが(素案1頁)、当会要請書において指摘したとおり、「消費者市民社会」の形成・発展に参画・寄与する消費者の育成は、あくまで国及び地方自治体の側の責務であって、消費者の側にそのような消費者となるべき責務を課すものではない。素案は、かかる観点が欠落しており、「消費者の自立」の名の下に消費者に責務を課すことに結びつきかねないので、この点についても再検討を求める。
 4 イメージマップ等を活用した、現状分析、具体的なアクションプランの策定、推進計画策定後の検証について再検討が必要である
(1)イメージマップ等を活用した現状分析
 効果的な推進計画を策定するためには、消費者庁が作成したイメージマップを参考にしながら、宮城県独自のイメージマップを策定し、宮城県における消費者教育の内、どの領域が不足しているか等を十分に分析すべきである。ところが、素案においては、消費生活センター等に寄せられた消費生活相談の統計や、学校に対するアンケート調査結果に基づき、一応の現状分析はなされているものの(素案3ないし9頁)、上記イメージマップを活用してどの領域が不足しているかの分析がなされているとは言い難く、再検討が必要である。
(2)具体的なアクションプランの策定
 推進計画を実効性あるものにするためには、推進計画の策定にあたって、抽象的項目やこれまでの消費者教育行政の整理に止まらず、具体的なアクションプランを策定することが重要である。ところが、素案においては、「第3章 消費者教育推進計画の具体的取組」において、消費者教育推進のための具体的取組が示されているものの、いずれも現在行われている取組を羅列したに過ぎず(素案10ないし19頁)、現状分析をもとにした具体的なアクションプランが示されているとは言い難い。この点、例えば、消費生活相談の統計からは、「平成21年度には22%だった60歳以上の高齢者層の割合が年々増加し、平成25年度には31%と平成21年度と比較して1.4倍に増加し高齢者層の相談割合が増加していることが分かります」との分析がなされている(素案3ないし4頁)。また、学校に対するアンケート調査結果によれば、「他の優先課題があり取り組めない」「活用できる教材が少ない」「教員のスキルアップを図る研修の機会が少ない」「指導者や講師となる人材の情報が得られない」「どのような取組をすればよいか分からない」といった回答が多数寄せられているとの結果が出ている(素案6頁)。にもかかわらず、これら分析ないし調査の結果に基づく新たな具体的取組は何ら示されていないので、この点も再検討が必要である。
(3)推進計画策定後の検証
 推進計画の実効性確保のためには、推進計画策定後も、アクションプランへの取組状況やその効果を検証、評価していくこと、及びその検証方法について、推進計画にも明記することが重要である。ところが、素案においては、平成30年度までを計画の期間とし、計画の期間内であっても社会情勢の変化等に対応するため必要に応じて見直すこと(素案2頁)、平成28年度に宮城県消費者施策推進計画(第3期)に組み込まれた後も3年を目処に基本方針の見直しを行うとしている国の動向を踏まえ、適切な管理を行っていくこと(素案20頁)が記載されているのみで、具体的な検証方法については何ら明記されていないので、再検討が必要である。この点、「静岡県消費者教育推進計画」においては、「消費者教育の推進体制に関する進捗評価」として数値目標とその達成予定時期が定められており、参考となる。
 5 消費者教育の担い手の育成と学校における消費者教育の充実について再検討が必要である
(1)消費者教育の担い手の育成
 消費者教育の実践のためには、消費者教育の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という)にあるとおり、その担い手の育成が重要であり、担い手育成のための具体的方策についても推進計画に盛り込むべきである。消費者教育の担い手としては、これまでも消費生活相談に対応し知識、経験の積み重ねのある消費生活相談員が考えられ、相談員へのさらなる研修の充実や、これまでも当会が要請してきた相談員の雇用、地位の安定等が重要である。「静岡県消費者教育推進計画」においても、消費者教育の担い手の育成・活用について、「消費生活相談員の資質向上」が重点的に取り組むべき事項とされている。また、平成26年6月に成立した改正消費者安全法(不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律)において、消費生活相談員の職が法律に位置づけられ、その専門性の確保・向上が重要課題とされ、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)から、改正法公布を契機として、「雇い止め」を廃止し相談員の処遇改善を求めるメッセージが出されている。「雇い止め」は、消費者教育における人材育成・活用においても大きなマイナスとなることは明らかである。素案においては、国や弁護士会等と連携して更なる研修の充実を進めるとするのみで(素案15頁)、消費生活相談員の担い手としての重要性、相談員の資質の向上、雇用、地位の安定については何ら触れられていないので、この点について再検討が必要である。また、相談員以外の地域における人材の育成も重要であり、そのための具体的方策としては、例えば、ケアマネージャー、ヘルパー、民生委員等の高齢者・障害者等を支援、見守る立場の者への研修の実施、啓発・情報提供等の他、県が養成講座を開設するなどして地域における消費者リーダーとなる人材を育成する等の積極的対策が検討されるべきであるが、素案では、人材育成の具体的方策についても従前の取組例が記載されているに過ぎず(素案16頁)、さらなら検討が必要である。県においては、市町村の消費者教育支援も重要な役割である。県が養成講座等により人材を育成するとともに、その人材が市町村において活用されるよう、活用促進策もあわせて検討されるべきである。この点、「静岡県消費者教育推進計画」においては、「消費者団体、法曹関係者、事業者、県研修終了者等の活用」に取り組むとして、県民消費生活センター単位で講座を開設し、平成29年度末までに1200人の消費者教育の担い手(地域人材)を育成することを明記しており、参考になる。市町村支援についても、県が、養成講座やレベルアップ講座等を開設して消費者リーダーを養成した上、市町にその人材活用を働きかける取り組みをしている例(山口県等)が参考にされるべきである。
(2)学校における消費者教育の充実
 学校における消費者教育の充実のための具体的計画を盛り込むことも重要であるところ、既に指摘したとおり、学校に対するアンケート調査結果から様々な課題が浮かび上がっているにもかかわらず、これに対する具体的方策が示されていない。この点、当会要請書で示したとおり、千葉県柏市においては、教育委員会と行政部門が連携し、消費者教育の授業計画例を策定したり、消費者教育相談員を設置する等、積極的な施策が行われており参考となる。また、埼玉県において教育委員会主導の下で現場の教師による消費者教育実践例の報告が行われていることも参考となる。
6 関係諸団体の意見を十分に反映することについて再検討が必要である
「消費者市民社会」の実現という法の趣旨を普及し、達成していくためには、多様な団体の協力を得ていくこと不可欠であり、そのためには一方的な行政主導ではなく、関係諸団体の意見を十分に反映しながら施策を進めていくことが必要である。宮城県では、新たに消費者教育推進地域協議会を立ち上げるのではなく、既存の宮城県消費生活審議会を拡充して地域協議会の機能を持たせることとされているが、そのような方法を採るとしても、関係機関や団体からのヒアリングを十分に行うなど、多様な機関・団体の意見を十分に反映していくことが重要である。しかし、平成26年7月24日に開催された宮城県消費生活審議会においては、そのようなヒアリング等の機会を設けるとの説明はなされておらず、審議方法についても再検討が必要である。
7 専門委員の任命等を検討すべきこと
消費者教育推進法では、「消費者市民社会」の形成、行政・学校・地域等における多角的な取り組みが求められおり、推進計画策定に当たって調査・検討しなければならない事項は多岐にわたる。平成26年7月24日開催の宮城県消費生活審議会においても、今後検討を要する事項が多数ある旨説明されているところであり、十分な検討が行われるためには、専門的知見を活用した検討を行うことが必要と思料される。例えば、静岡県においては、「ふじのくに消費者教育研究会」を設置し、消費者教育支援センターに素案作成を委託して「ふじのくに消費教育のあり方報告書」をとりまとめ、浜松市においても、「消費者教育のあり方検討会」を開催して「消費者教育のあり方報告書」をとりまとめて消費者教育の推進計画策定に役立てているとのことである。宮城県の例としても、平成17年に宮城県消費生活条例の改正を行った際、県知事より宮城県消費生活審議会に「条例の在り方」について諮問がなされ、これを受けて審議会に「条例検討部会」を設置し、部会での検討を重ねて(約1年半の間に6回の部会開催)、県知事に答申を行って現在の条例制定に至っている。今回の消費者教育推進計画は、今後の県の消費者行政の中核的事項に関する指針を定めるという重要な施策であり、専門委員(宮城県消費生活条例第32条)を任命する等により、専門的知見を活用した検討により策定することが適切と思料されることから、そのような措置をとることを検討されるよう求めるものである。
8 まとめ
以上から、意見の趣旨記載のとおり求める次第である。なお、当会は、これまでも宮城県に対し、消費者教育の推進に限らず、消費者行政の充実全般に関して意見を述べるとともに、その活動に全面的に協力してきた。今回、宮城県に対しては、推進法の趣旨を反映した実効性のある推進計画を策定していただきたく意見を述べるものであるが、当会としても推進計画の策定作業に関与するなどの必要な協力を行いたいと考えているので、併せて検討いただきたい。  以 上

平成27年03月12日 宮城県迷惑行為防止条例案について規制対象を明確化して限定することを求める会長声明
ttp://senben.org/archives/5739
宮城県は,現在開会中の県議会において,「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(以下「現行条例」という。)の一部を改正する条例案(以下「改正条例案」という。)を提出している。改正条例案は,現行条例の名称を「迷惑行為防止条例」に改めるとともに,正当な理由なく行う「つきまとい,待ち伏せし,進路に立ちふさがり」,「見張り」,「押し掛けること」,「面会その他の義務のないことを行うことを要求すること」などを反復する行為を「嫌がらせ行為」として禁止し,常習の場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処し,常習でなくても6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処するという規定を新設しようとしている。確かに,ストーカー規制法の対象となっていない「つきまとい」などによる被害を防止する必要性があることは否定できない。しかし,上記「嫌がらせ行為」の禁止規定は,目的による限定もなく,規制対象も広範かつ不明確であり,その上,罰則まで設けているため,運用次第では市民運動や労働運動,マスコミ等の報道・取材活動など憲法が保障する言論・表現の自由,労働基本権を幅広く制約するおそれがある。 改正条例案は,規制対象である「嫌がらせ行為」の限定化を図るために,つきまといや面会要求などについては,「身体の安全若しくは住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る」としているが,主観的評価が入り込む余地があるため,限定機能は乏しいと言わざるを得ない。また,改正条例案は,「正当な理由」という要件によって禁止対象の限定を試みているが,「正当な理由」の解釈如何によっては改正条例案の本来の趣旨を超えて,本来正当なものとして保障されるべき市民運動や労働運動等が「嫌がらせ行為」に該当するとして不当に制限され,又は萎縮してしまうおそれがある。 当会は,市民運動,労働運動及び取材活動などの憲法で保障されている基本的人権に基づく活動が改正条例案本来の趣旨を逸脱して不当に制約されることのないよう,より規制対象を明確化して限定することを強く求める。 
2015年(平成27年)3月12日仙台弁護士会会長齋藤拓生

2254 ら特集10仙台弁護士会⑤5

平成27年02月21日 集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定の撤回を求めるとともに同閣議決定に基づく法整備に強く反対する決議
ttp://senben.org/wp-content/uploads/2015/02/shudantekijieikenketugi_270221.pdf
政府は,2014年7月1日「国, の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題して,集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定を行い,今後,集団的自衛権の行使等を実現させるための法整備を進めていくとの方針を示している。本閣議決定が推し進めようとする集団的自衛権の行使容認は,これまでの政府解釈において憲法上許されないとされていたものである。また,海外での国際的活動やグレーゾーン事態(武力攻撃に至らない侵害が発生した場合)における自衛隊の活動及び武器使用の範囲の拡大は,従来の自衛権発動の要件や海外での自衛隊の活動における制約を不当に緩和するものである。本閣議決定は,日本が武力攻撃をされていないにもかかわらず,戦争に参加することを許容し,自衛隊による地理的な限定のない実質的な「武力の行使」を可能とするものであり,今後,本閣議決定に基づく法整備が推し進められると,戦争をしない平和国家としての日本の国の在り方が根底から変わることとなる。日本国憲法は,前文で平和的生存権を確認し,第9条第1項において,国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄し,更に,同条第2項において,戦力不保持,交戦権否認を定めるなど,徹底した恒久平和主義を採用している。本閣議決定が許容する集団的自衛権の行使等は憲法第9条等に定める恒久平和主義に違反するものである。また,本閣議決定は,憲法第96条に定める憲法改正手続を潜脱して実質的な憲法改正を行おうとするものであり,主権が国民に存することとした国民主権や国家権力を憲法による制約の下に置くこととした立憲主義に反するものである。よって,当会は,集団的自衛権の行使等を容認する本閣議決定に強く抗議し,本閣議決定の撤回を求めるとともに,同閣議決定に基づく法整備に強く反対するもの
である。以上のとおり決議する。
2015年(平成27年)2月21日
仙台弁護士会会長齋藤拓生
提案理由
第1 集団的自衛権行使容認に至る政府の動き
2012年12月の第46回衆議院議員総選挙で自由民主党(以下「自民党」という。)が政権与党に復帰し,安倍晋三氏が再び首相に指名されたことを契機に,集団的自衛権の行使を容認する動きが急速に進められた。安倍首相は,就任直後の2013年1月,「集団的自衛権行使の(憲法解釈)
 見直しは安倍政権の大きな方針の一つ」と述べ,同年2月には,首相の私的諮問機関であり,2008年6月に集団的自衛権の行使容認等を提言する第1次報告書を作成した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(以下「安保法制懇」という。)を約5年ぶりに再開させた。安倍首相は,当初,憲法改正要件(第96条)の緩和にも意欲を見せていたが,国民の強い反対を受けたためこれを断念し,以後,解釈変更による集団的自衛権の行使容認に注力するようになった。2013年8月には,政府の憲法解釈において重要な役割を果たしてきた内閣法制局について,次長から長官に内部昇格するという従来の慣行を破り,内閣法制局での勤務経験がない者を内閣法制局長官に登用した。その上で,2014年5月15日,安保法制懇が報告書を提出したことを受けて安倍首相は記者会見を行い,同報告書の「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき,限定的に集団的自衛権を行使することは許される」という考え方について今後さらに研究を進め,憲法解釈の変更が必要と判断されれば閣議決定を行う旨表明した。その後,自民党と公明党による与党協議が行われたが,集団的自衛権の行使容認に反対する世論も大きい中,国会での議論を行うこともなく,ついに2014年7月1日,政府は,集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定(「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」。以下「本閣議決定」という。)を行った。
第2 本閣議決定の内容
1 憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認
 本閣議決定は,「現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果,①我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において,②これを排除し,我が国の存立を全うし,国民を守るために他の適当な手段がないときに,③必要最小限度の実力を行使することは,従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として,憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った」とし(①②③の数字は引用者が挿入。この3つの要件を,以下「新3要件」という。),「憲法上許容される上記の『武力の行使』は,国際法上は,集団的自衛権が根拠となる場合がある」とした。このように,本閣議決定は,「我が国に対する武力攻撃が発生した場合」ではない場合にも,他国に対する武力攻撃を実力をもって阻止することが憲法上許容される場合があるとするものであり,これまでの政府解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認するものである。
2 国際的活動における後方支援活動と武器使用の拡大
(1) 自衛隊が後方支援活動を行うことができる地域の拡大
 本閣議決定は,国連安保理決議に基づき武力行使を行う他国軍隊に対して日本が支援活動を行うことが必要な場合があるとの認識の下,「従来の『後方地域』や『非戦闘地域』といった自衛隊が活動する範囲をおよそ一体化の問題が生じない地域に一律に区切る枠組ではなく,他国が『現に戦闘行為を行っている現場』ではない場所で実施する補給,輸送などの我が国の支援活動については,当該他国の『武力の行使と一体化』するものではないという認識を基本と」するとして,「(ア)・・・他国軍隊が『現に戦闘行為を行っている現場』では支援活動は実施しない。(イ)・・・支援活動を実施している場所が『現に戦闘行為を行っている現場』となる場合には,直ちに支援活動を休止又は中断する」という考え方に立って,「必要な支援活動を実施できるようにするための法整備を進める」とした。これはつまり,「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ支援活動を実施できるとするもので,これまで「後方地域」や「非戦闘地域」という概念により限定してきた,自衛隊が支援活動等を行うことができるとされる地域を,大幅に拡大するものである。
(2) 国際的な平和協力活動等に伴う武器使用の拡大
これまで政府は,国際的な平和協力活動におけるいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」について,これを「国家又は国家に準ずる組織」に対して行った場合には,憲法第9条が禁ずる「武力の行使」に該当するおそれがあるとして,自衛官の武器使用権限はいわゆる自己保存型と武器等防護に限定してきた。ところが,本閣議決定は,PKO参加5原則の枠組みの下で,受入れ同意をしている紛争当事者以外の「国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場することは基本的にないと考えられるなどとして,国際的な平和協力活動におけるいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用や,「任務遂行のための武器使用」をできるようにするとともに,武器使用を伴う在外邦人救出などの警察的な活動もできるように法整備を進めるとした。このように,本閣議決定は,自衛隊の国際的な活動等に伴う武器使用を拡大するものである。
3 武力攻撃に至らない侵害における自衛隊による武器使用等の容認
また,本閣議決定は,「純然たる平時でも有事でもない事態」ないし「武力攻撃に至らない侵害」(いわゆる「グレーゾーン事態」)について,警察機関と自衛隊がより緊密に協力し,切れ目のない十分な対応態勢を整備することが重要であるとの認識の下,離島の周辺地域等において外部からの武力攻撃に至らない侵害が発生した場合を挙げて,自衛隊の治安出動や海上警備行動の発令について,状況に応じた早期の下令や手続の迅速化のための方策を具体的に検討すると述べる。さらに,自衛隊と米軍部隊が連携して行う平素からの活動に際して,米軍部隊に対して武力攻撃に至らない侵害が発生した場合を想定し,日本の防衛に資する活動に現に従事している米軍部隊について,自衛隊法第95条の考え方を参考に,その武器等の防護のために自衛隊が武器の使用ができるよう,法整備をするとした。日本の防衛法制は,武力攻撃事態及びその予測事態を有事と,それ以外を平時と位置付けており,「グレーゾーン事態」といわれている事態も,防衛法制上は平時であり,本来,警察や海上保安庁が対応すべき場面である。本閣議決定は,このような場面においても自衛隊を積極的に活用し,米軍部隊の武器等防護のためにも武器使用を認めようとするものである。
第3 集団的自衛権に関する従来の政府解釈
1 集団的自衛権行使の否定
 政府は,従来,憲法第9条が戦争放棄(第1項),戦力の不保持と交戦権の否認(第2項)を規定していることを前提として,憲法第9条の下で自衛権の発動が許容されるのは,①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること,②この攻撃を排除するため,他の適当な手段がないこと,③自衛権行使の方法が,必要最小限の実力行使にとどまること,の三要件を満たす場合に限られるとしてきた。そして,このような解釈の下,政府は,集団的自衛権について,「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止する権利」と定義した上で,「我が国が,国際法上,このような集団的自衛権を有していることは主権国家である以上,当然であるが,憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は,我が国を防
 衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており,集団的自衛権を行使することは,その範囲を超えるものであって,憲法上許されない」(1981年5月29日の政府答弁書)との見解を一貫して貫いてきた(1954年6月3日衆議院外務委員会外務省条約局長答弁,1972年10月14日参議院決算委員会政府提出資料等)。その理由は,集団的自衛権の行使が上記三要件のうち①を満たさないからであり(2008年1月26日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁),岸信介首相,中曽根康弘首相ら歴代の首相も,集団的自衛権の行使は憲法上許されない旨明言してきた。2004年6月18日の政府答弁書においても,集団的自衛権について,「国民の生命等が危険に直面している状況下で実力を行使する場合とは異なり,憲法の中に我が国として実力を行使することが許されるとする根拠を見いだし難」いとして,その行使は憲法上許されないとされた。このように,政府は従来,集団的自衛権の行使は憲法上許されないとの見解を繰り返し表明し,過去数十年にわたる国会等での議論において確認されてきたのである。
2 自衛隊用の後方支援活動及び国際平和協力活動における武器使用の限定
(1) 後方支援活動について
 これまで政府は,自衛隊のいわゆる後方支援活動に関し,補給,輸送協力等それ自体は直接武力行使を行わない活動であっても,他国による武力の行使と一体となるような行動としてこれを行うことは憲法第9条との関係で許されないとし(1999年1月22日参議院本会議内閣総理大臣答弁),他国の武力行使と一体化するかどうかは地理的関係その他の事情によって判断されるとしてきた(1997年2月13日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁)。そして,この観点から,自衛隊が支援活動等を行うことができる地域について,「後方地域」や「非戦闘地域」という概念(「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず,かつ,そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海・・・及びその上空の範囲)を設け」 ,活動をその地域に限定してきたのである。イラク戦争に際しては,「非戦闘地域」であるとしてサマーワに陸上自衛隊が派遣されたが,それでも繰り返し砲撃を受ける等の危険にさらされたのであり,これまでの武力行使の一体化論や「後方地域」「非戦闘地域」という概念でさえも,日本の海外での武力行使の防止にとって問題が多く,憲法上疑義のある限定であった。
 (2) 国際的な平和協力活動における武器使用についてまた,政府は従来,国際的な平和協力活動における「駆け付け警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」について,「国家又は国家に準ずる組織」に対して行った場合には,憲法第9条が禁ずる「武力の行使」に該当するおそれがあるとして,自衛官の武器使用権限をいわゆる自己保存型と武器等防護に限定してきた。3 憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に関する政府見解政府は,従来,憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を認めることができるのかどうかについて,「集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考え方があり,それを明確にしたいということであれば,憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」と答弁し(1983年2月22日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁),また,集団的自衛権に関する憲法解釈の変更があり得るのかどうかについても,「(政府の憲法解釈は)それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたもの」であり,「政府がその政策のために従来の憲法解釈を基本的に変更するということは,政府の憲法解釈の権威を著しく失墜させますし,ひいては内閣自体に対する国民の信頼を著しく損なうおそれもある,憲法を頂点とする法秩序の維持という観点から見ましても問題がある」(1996年2月27日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁),「憲法は我が国の法秩序の根幹であり,特に憲法第9条については過去50年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので,その解釈の変更については十分に慎重でなければならない」(2001年5月8日政府答弁書)などと答弁して,憲法解釈の見直しに慎重かつ否定的な姿勢を貫いてきた。
第4 本閣議決定は日本国憲法第9条に違反する
1 日本国憲法の基本原理としての恒久平和主義
 国民主権,基本的人権の尊重,恒久平和主義等を基本原理とする日本国憲法が,戦後日本の民主主義と人権の発展,そして平和のために果たした役割は極めて大きい。日本国憲法は第二次世界, 大戦の痛切な反省を踏まえて,前文において,「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにする」との決意及び「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しよう」との決意を明らかにした上で,「全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免れ,平和のうちに生存する権利を有することを確認」している。その上で,憲法第9条は,国連憲章の国際紛争の平和解決原則をさらに発展させ,国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使を国際紛争を解決する手段としては永久に放棄し(憲法第9条第1項),陸海空軍その他の戦力を保持せず,国の交戦権を否認する(憲法第9条第2項)旨規定し,徹底した恒久平和主義を基本原理としている。平和なくして基本的人権が尊重・擁護されることはなく,戦争は最大の人権侵害であることに照らせば,この基本原理は,恒久平和への指針として世界に誇り得る先駆的意義を有しているものである。
2 集団的自衛権の行使は日本国憲法第9条に違反し許されない
本閣議決定が容認しようとする集団的自衛権の行使は,日本が他国間の戦争に加わっていくことを意味するものであり,戦争放棄,戦力不保持,交戦権の否認を定めた憲法第9条に違反することは明らかである。本閣議決定は「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」等の文言で集団的自衛権の行使を限定するものとされているが,これらの文言は極めて幅の広い抽象的な不確定概念であり,時の政府の判断によって恣意的な解釈がされる危険性が極めて大きい。個別的自衛権発動の第1要件である「急迫不正の侵害」の存否判断とは
異なり,「明白な危険」の有無は判断者の主観が入る余地が大きく,具体的判断要素として挙げられている点も,政府が武力行使をするかどうかを判断する場合に,当然に検討するであろう要素や状況であり,これらによって判断基準が客観的に明瞭になったとは言えない。また,「我が国の存立が脅かされる」ことと「国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」こととの関係については,国家と国民という表裏一体のものの両面であり,後者は我が国の存立が脅かされるということの実質を国民に着目して記述したものであり,加重要件ではないとされている(国会集中審議における政府答弁)。したがって,この要件は,政府の説明によれば,「我が国の存立が脅かされる」かどうかということに帰着し,「国民の権利」云々の修辞は特段限定する意味を持たないことになる。この要件は,全体として余りにも曖昧で抽象的であり,武力の行使の範囲を明確に限定したものとは到底言えない。実際,国会集中審議等で明らかにされた,本閣議決定における集団的自衛権の行使事例は,極めて幅広いものである。例えば,政府が与党に示した15事例のうちの集団的自衛権に係る8事例の全てが,新3要件に当てはまれば許容されるという(政府想定問答問10)。中でも,例えばホルムズ海峡に撒かれた機雷の除去について,安倍首相は国会集中審議において,同海峡は我が国が輸入する原油の8割が通過しており,同海峡を経由した石油供給が回復しなければ,我が国の国民生活に死活的な影響が生じ,我が国の存立が脅かされる事態が生じ得るなどと述べ,内閣官房一問一答(問24・25・27)もその機雷除去の重要性を強調している。これまでの政府の憲法第9条の解釈においては,海外での武力の行使は行わないとの原則の下,自衛隊による実力の行使は,我が国を防衛するための受動的なものであり,原則として我が国の領土・領海・領空とその周辺の公海・公
 空に限られるとされてきた。それは,集団的自衛権の行使の禁止とも重なり,また,国連の集団安全保障や周辺事態に際して武力を行使する他国の「後方支援」において,「他国の武力行使との一体化」を禁止し,PKO活動における武器使用を自己保存型と武器等防護に制限し,駆け付け警護や任務遂行のための武器使用を認めてこなかったことにも現れている。ところが,他国に対する武力攻撃に対する集団的自衛権の行使にあっては,最初から,日本が武力を行使する場所は日本の領域外であり,それが公海・公空であっても日本周辺とは限らない。本閣議決定に基づく集団的自衛権の行使を含む「自衛の措置」は,ホルムズ海峡のような「地球の裏側」をも含み,地理的限定のない世界的規模での自衛隊の出動を予定するものと言わざるを得ない。日本が集団的自衛権を行使すると,日本が他国間の戦争において中立国から交戦国になるとともに,国際法上,日本国内全ての自衛隊の基地や施設が軍事目標となり,軍事目標に対する攻撃に伴う民間への被害も生じ得る。このように,本閣議決定は,憲法前文が定める平和的生存権の保障並びに第9条が定める戦争放棄,戦力不保持及び交戦権否認等の恒久平和主義の基本原理に背馳し,これに違反するものである。
3 国際的活動における後方支援活動及び武器使用の拡大並びに武力攻撃に至ら
 ない侵害における自衛隊による武器使用等の容認も日本国憲法第9条に違反するさらに,本閣議決定は,集団的自衛権の行使容認ばかりでなく,国際協力活動の名の下に自衛隊の武器使用権限と後方支援活動を拡大することまで含めようとしている点も看過できない。武力攻撃に至らない侵害への自衛隊による対処を拡大しようとしている点も問題である。
(1) 国際的活動における後方支援活動について
前記第2・2・(1)のとおり,本閣議決定は,従来の最低限とも言える制約すら取り外し,他国が「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ,自衛隊が補給,輸送等の支援活動を行うことができるようにしようとするものである。本閣議決定は,他国の武力行使との一体化論それ自体は前提とするといいながら,他国が「現に戦闘行為を行っている現場」でなければ支援活動を行っても当該他国の武力行使と一体化するものではないと「認識」するという。しかし,これは客観的根拠に乏しい決め付けでしかない。「現に戦闘行為を行っている現場」に近接した場所で,戦闘行為を行う他国の軍隊に補給・輸送等の支援活動を行うことは,当該他国と戦闘行為を行っている相手国からすれば,すぐ近くで直接補給等を行っている日本も敵国そのものに見えて当然であり,当該他国の武力行使と一体化していると言わざるを得ない。そのような状況において,自衛隊が相手国の攻撃の対象になり,自衛隊がこれに応戦することで,交戦状態に突き進むことも危惧される。本閣議決定は,武力の行使を行う他国の支援活動について,「現に戦闘行為を行っている現場」でない場所にまで地域を広く拡大することにより,これまで政府が採ってきた「他国の武力行使との一体化の禁止」を実質的に放
 棄するものと言わざるを得ない。本閣議決定が予定する自衛隊の後方支援活動は,海外における武力の行使として,憲法第9条に反すると言うべきである。
(2) 自衛隊の国際的な活動に伴う武器使用について
前記第2・2・(2)のとおり,本閣議決定は,自衛隊の国際的な活動等に伴う武器使用を拡大しようとするものであるが,武器使用については,「警察比例の原則に類似した厳格な比例原則が働く」とも述べている。しかし,もともと駆け付け警護は,襲われた武装集団等を排除して対象者を援護,救助しようとするものであり,任務遂行のための妨害排除は,妨害する武装集団等を排除しようとするものであるから,いずれも相手を凌駕するだけの武器使用を必要とすることになる。そこでは,自衛隊による実質的な「武力の行使」が行われ,相手も自己防衛を超えた武力の行使をされていると受け止めることによって,相互に交戦状態に発展することが危惧される。それは,邦人救出の場合でも同様である。「駆け付け警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」について,「国家又は国家に準ずる組織」に対して行った場合には「武力の行使」に該当するおそれがあるとして,自衛権の武器使用権限を自己保存型と武器等防護に限定してきた従来の政府解釈は,憲法第9条の規範としての海外における武力行使の禁止の一環をなすものである。本閣議決定は,紛争当事者の受入れ同意や領域国政府の同意が及ぶ範囲には「国家又は国家に準ずる組織」が存在していないと考えられるなどと述べるが,これは従来の政府解釈の前提を大きく変えるものであり,客観的根拠に乏しい決め付けである。本閣議決定が自衛隊の国際的な活動等に伴う武器使用等を拡大しようとしている点も,憲法第9条に反すると言うべきである。
(3) 武力攻撃に至らない侵害における自衛隊による武器使用等の容認について
前記第2・3のとおり,日本の防衛法制は,武力攻撃事態及びその予測事態を有事と,それ以外は平時と位置付けており,「グレーゾーン事態」といわれている事態も,防衛法制上は平時である。本来は警察,海上保安庁の役割の場面で自衛隊を積極的に活用しようとすることは,一歩間違うと武力紛争に発展する危険性をはらむもので,国際紛争解決のための武力行使を禁止した憲法に反するおそれがある。「グレーゾーン事態」はあくまで平時であるから,治安の維持回復のための実力行使と言えども,防衛力を行使するということは,極めて慎重になされなければならない。防衛力を行使することで,「グレーゾーン事態」の背景にある国との間で不測の武力紛争へと発展しかねないおそれがあり,また,現場での判断により文民統制が徹底されないおそれもある。「グレーゾーン事態」における「命令発出手続の迅速化」は,国際紛争を解決するために武力を行使しないという憲法第9条に反するおそれがある。また,本閣議決定では日米の共同演習などを想定していると思われるが,米軍部隊に武力攻撃には至らない侵害が発生した場合に,自衛隊が米軍部隊のために武器を使用できるとすると,日本が深刻な武力紛争に巻き込まれるおそれがあるさらには,集団的自衛権の行使へと発展することも想定され,その場合,憲法第9条に違反することになる。
第5 本閣議決定は日本国憲法の基本理念である立憲主義に反する
1 日本国憲法の基本理念としての立憲主義
 近代立憲主義は,個人の自由・権利(個人の尊重)を確保するため,憲法によって国家権力を制限することを目的とする近代憲法の基本理念であり,日本国憲法の基本理念である。すなわち,日本国憲法は「す, べて国民は,個人として尊重される」(第13条)とし,基本的人権の永久・不可侵性を確認するとともに(第97条),「天皇及び摂政及び国務大臣,国会議員,裁判官その他の公務員は,この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と,国家権力の行使を担う公務員に憲法尊重擁護義務を課している(第99条)。また,前文では,「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し,ここに主権が国民に存することを宣言し,この憲法を確定する」として,立憲主義に基づく平和主義を明らかにしている。この立憲主義の内容として重要なのが,国家権力の中でも暴走して個人の自由や権利を侵害する危険性の大きい実力組織の抑制である。そこで,日本国憲法は,憲法前文及び第9条によって実力組織が暴走しないための明確な歯止めを設けた。政府も,この憲法の下で,集団的自衛権の行使や海外における武力の行使は許されないとの解釈を長年一貫して積み上げてきた。こうして,恒久平和主義の現実的枠組みが形成され,憲法秩序の安定性が保持されてきた。それはまた,戦後の歴史を通じて積み重ねられてきた国民的議論の結果でもある。
2 本閣議決定は立憲主義に反する
 このような憲法規範の内容を,憲法改正の手続もとらずに,一内閣の憲法解釈の変更や法律の制定・改正によって実質的に改変し,憲法による歯止めを緩和させることは,憲法を遵守すべき立場にある国務大臣や国会議員によってなし得ることではない。それは,国民の自由・権利そして平和を,権力に縛りをかける憲法によって守ろうとする立憲主義に,真っ向から違反するものである。
第6 本閣議決定は日本国憲法の基本原理である国民主権に反する
1 日本国憲法の基本原理としての国民主権
 日本国憲法は,国民主権の原理に立脚する(憲法前文,第1条)。そして国民主権の原理は,国民の憲法制定権力の思想に由来し,この権力は,近代立憲主義憲法が制定されたとき,憲法改正権となる。日本国憲法は,その憲法改正権の行使について,第96条で,各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し,国民投票でその過半数の賛成を必要とすることを規定した。ここに,憲法制定・改正に関する国民主権の内容が定められているのである。したがって,本来憲法の改正をしなければできないことを,閣議決定や法律の制定・改正によって行おうとすることは,憲法第96条を潜脱し,国民主権を侵害するものとしても許されない。
2 本閣議決定が国民主権に反すること
本閣議決定は,日本国憲法の下で許容される余地のない集団的自衛権の行使を,法律の制定・改正によって行おうとするものであり,憲法第96条を潜脱し,国民主権に反するものである。しかも,特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)によって,政府が自衛権発動の要件等に関わる情報を特定秘密に指定して秘匿すると,自衛権発動等の要件が厳しいものであるかどうか以前の問題として,国民はもとより国会議員すら客観的な判断材料を持たないことになる。このよ
 うに国民が十分な情報を知らされないまま,日本が武力の行使等に至るならば,政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよう主権が国民に存することとした日本国憲法の立憲主義と国民主権に反することになる。
第7 本閣議決定に基づく法整備も憲法に違反し許されないこと
本閣議決定は,「今後の国内法整備の進め方」として,実際に自衛隊が活動を実施できるようにするためには,根拠となる国内法が必要となるとの認識の下,政府として,あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする法案の作成作業を開始することとし,準備ができ次第国会に提出する,としている。そこでは,整備の対象となる具体的な法令名は挙げられていないが,自衛隊法や武力攻撃事態法のほか,防衛省設置法,国家安全保障会議設置法,周辺事態法,周辺事態船舶検査法,武力攻撃事態国民保護法,武力攻撃事態特定公共施設利用法,国連平和維持活動協力法及び海賊行為対処法など,十数件の法律の改正等が想定される。また,本閣議決定が触れる安保理決議に基づいて武力行使を行う他国軍隊に対する支援活動については,これまでのテロ特措法やイラク特措法等の時限的個別立法ではなく,これを随時可能とする自衛隊海外派遣の恒久的一般法の制定も検討されていると報道されており,「武力攻撃に至らない侵害」への対応についても,自衛隊法の改正のほか,領海警備法(仮称)のような新規立法の可能性もある。本閣議決定を実施するためのこれらの法律の制定ないし改正も,日本国憲法に違反するものであるから許されない。国会の多数によっても,憲法に違反する法律の制定が許されないことはもちろんである。
第8 結論
 当会は,政府が憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認を示唆して以降,それが憲法に違反し許されないことを会長声明で表明するとともに,街頭活動及び講演会等で市民に訴え,集団的自衛権の行使容認に強く反対してきた。しかし,政府は本閣議決定を強行し,本年の通常国会において本閣議決定を実施するための法律の制定ないし改正を進めていく姿勢を示している。よって,当会は,集団的自衛権の行使等を容認する本閣議決定に強く抗議し,その撤回を求めるとともに,本閣議決定に基づく法整備に強く反対するものである。以上

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平成26年02月06日 少年法改正法案に強く反対する会長声明
ttp://senben.org/archives/4921
1 平成26年1月24日召集された通常国会において,少年法の一部を改正する法案が2月上旬に提出される見込みとなった。この法案は,国選付添人制度の対象事件の範囲を拡大することを内容に含むものではあるが,他方,検察官関与対象事件の範囲も拡大し,かつ,有期刑の上限引き上げをも含んでいる点において,少年法の改悪以外の何ものでもない。
2 少年法は「少年の健全な育成」を目的に掲げ(法1条),保護主義を基本理念とする。すなわち,非行を少年の成育環境や少年期の不安定さ等に起因する成長過程に生じる「歪み」と捉え,少年が自らの抱える問題を克服し成長し得る力と可塑性に依拠し,教育的な措置によりその問題性の解決を援助し,調和のとれた成長を確保するということである。そして,少年が自らの抱える問題を克服し成長していくためには,少年が自らの気持ちを率直に語り,少年と裁判官ら大人との対等な対話の中で,内省を深め,自らの真の問題性に気付き,これを克服する覚悟を決め,問題を解決する方法を探る必要がある。そのため,審判は,もともと表現力,理解力の未熟な少年らが心を開き自由に語れる場でなくてはならず,決して糾問的,弾劾的な場であってはならない(法22条1項参照)。ところが,平成12年の少年法改正により検察官関与制度が創設されたことによって,上記のような少年法の理念は後退を余儀なくされた。少年は,捜査段階で,長期間自由を拘束され,時には一方的な厳しい追及を受け,場合によっては虚偽自白を迫られることもある。そのような捜査機関の一員である検察官が審判にも関与した場合,少年が検察官の前で萎縮し,取調べ段階での供述に縛られ,あるいは検察官への反発から感情的になり,自由に本心を語り自分自身の問題性を深く掘り下げることができなくなるおそれがある。このように重大な問題を孕む検察官関与の対象事件が更に拡大されれば,少年法の保護主義の理念はなし崩し的に骨抜きにされ,取り返しのつかない重大な変容が生じかねず,ひいては,検察官が関与しない審判においてすら,保護主義は忘れ去られ,少年審判が,行為責任を追及する刑事裁判と同質のものとなることが懸念される。そして,このような状況下においては,いくら国選付添人制度が拡大されたとしても、検察官関与拡大による弊害を解消することはできない。少年が,自らの問題性に気づき克服していこうとする姿は,審判を捜査機関の影響から遮断し,懇切かつ和やかな雰囲気の中で,少年の立ち直りを援助する保護主義のもとでこそ実現するものであり,決して付添人弁護士単独の力によってなしえるものではない。したがって,上記法案に国選付添人対象事件の拡大が含まれていることは,上記法案に賛成する理由にはなりえない。
 3 さらに,上記法案には,少年法における有期刑の上限引き上げ規定が含まれているが,この点も決して是認できない。少年法が不定期刑を導入し,成人に比べて有期刑の期間を大幅に短縮しているのは,少年の可塑性や,未熟ゆえに成人に比べてその責任が減少すること,情操保護の必要性等,少年の特性を踏まえた理由があるのであり,成人の有期刑の上限が引き上げられたことから直ちに少年の有期刑も上限を引き上げるべきということにはならない。特に少年受刑者は,刑執行開始後3年間は,少年受刑処遇要領の下で処遇するとされているが,その後は成人と同様の処遇になる。このような点からも,長期間の受刑は,少年の社会復帰を著しく困難にする。少年事件は凶悪犯罪を含め,減少傾向にあることが統計上明らかである。このような中で,重大事件を対象に厳罰化しなければならない立法事実は存在しない。ゆえに,少年の刑の厳罰化を図るべき根拠はなく,そもそも,厳罰化は非行の問題を解決することにはつながらず,逆に少年の社会復帰を困難にし,少年の更生を阻害するものであるから,このような観点からも,上記法案は決して容認できないものである。
1 以上のとおり,当会は,少年の刑を厳罰化し、少年法の理念の崩壊という極めて重大な弊害をもたらす上記法案に,強く反対する。
2014年(平成26年)2月6日仙台弁護士会会長内田正之

平成25年12月13日 特定秘密保護法の参議院採決に抗議し同法の廃止を求める会長声明
ttp://senben.org/archives/4849
12月5日,参議院国家安全保障に関する特別委員会において特定秘密保護法案の採決が強行され,翌6日,本会議において可決され,特定秘密保護法が成立した。当会は,これまで同法案について,①特定秘密の範囲が広範かつ不明確で,恣意的な秘密指定がなされるおそれがあるため,知る権利の保障や国民主権を後退させるものであること,②秘密指定等の適正をチェックする独立した第三者機関が存在しないこと,③処罰範囲も広範かつ不明確であり,罪刑法定主義の観点からも重大な疑義が存し,取材活動にも深刻な萎縮効果をもたらすこと,④国会議員への特定秘密の提供についても行政の裁量の余地が残されており,国会の内閣に対するコントロール機能が後退すること,⑤適性評価制度により国民のプライバシーが侵害されるおそれがあること,などを指摘し,同法案の廃案を求めてきた。国会における審議では,衆議院において法案の修正案が提案されたものの,それらについての十分な審議はなされず,当会が指摘し,多くの国民が懸念している問題点がなんら解消されないままで可決されたものであり,参議院においては,衆議院における審議において検討が不十分であった点についてさらなる審議がなされる必要があった。それにもかかわらず,法案全文が国民に明らかにされた10月25日からわずか1ヶ月余りの短期間で,十分な審議による問題点の解消すらなされずに衆議院に引き続き参議院でも特別委員会において採決を強行し,本会議において同法案を可決したことは,国民主権・民主主義を冒涜するものと言わざるを得ず,当会はその採決に強く抗議する。当会は,国民主権や基本的人権の保障を損なうおそれのある特定秘密保護法の廃止を求める。

2013年(平成25年)12月13日仙台弁護士会会長内田正之

平成25年12月13日 死刑執行に断固抗議し,死刑執行を停止するとともに,死刑に関する情報を広く公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を求める会長声明
ttp://senben.org/archives/4846
本年12月12日,東京拘置所及び大阪拘置所において,それぞれ1名(計2名)の死刑確定者に対する死刑の執行が行われた。谷垣禎一法務大臣による死刑執行は今回で4度目であり,死刑を執行された者はこの1年間で計8名となった。当会は,これまでも,死刑が罪を犯した人の更生と社会復帰の観点から見たとき,その可能性を完全に奪うという問題点を内在しているものであること,誤判・えん罪による生命侵害という取り返しのつかない危険を内包するものであることから,政府に対し,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しを行い,その間死刑の執行を停止するよう繰り返し求めてきた。そして,当会は,本年5月22日付けの会長声明において,政府が死刑制度を廃止することが適当ではない理由として挙げている点に関し,第1に,死刑制度に関する情報が国民に周知されていない状況における世論調査は死刑制度を正当化するものとしては説得力に乏しいと言わざるを得ないこと,第2に,我々国民が死刑制度の存廃について十分に議論を尽くし意見を形成するためには死刑制度に関する情報が広く公開されることが必要であること,第3に,死刑の犯罪抑止効果は科学的・統計的に証明されているとは言い難いことを指摘した。そのうえで,死刑の執行を停止し,死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を開始することを要請していた。さらに,当会は,本年9月19日付け会長声明においても,国民への情報公開,国民的議論を尽くさないまま死刑執行を行った政府に対し,抗議したばかりである。そのような中,政府が,前回の執行からわずか3か月後に今回の死刑執行を行ったことについては,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討と見直しの必要性を軽視し,死刑制度が基本的人権に関わる極めて重要な問題であることへの配慮を著しく欠いたものと言わざるを得ない。よって,当会は,政府に対し,今回の死刑執行について,断固抗議するとともに,死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であることを踏まえ,死刑廃止が国際的潮流となっている事実を真摯に受け止め,死刑の執行を停止した上で,死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を開始するよう改めて要請する。
2013年(平成25年)12月13日仙台弁護士会会長内田正之

平成25年11月29日 特定秘密保護法案の衆議院採決に抗議し、参議院での廃案を求める会長声明
2013年(平成25年)11月29日仙台弁護士会会長 内 田 正 之
ttp://senben.org/archives/4805
平成26年08月27日 精神科病院の病棟を居住系施設に転換することに反対する会長声明
ttp://senben.org/archives/5522
現在、日本には約34万床の精神病床があり、約32万人の患者が入院している。このうち、1年以上の長期入院患者は約20万人、10年以上の入院患者は約6万5000人にのぼる。入院患者数や入院期間は諸外国と比較すると極めて多く、この中には受け入れ条件が整えば退院可能な患者(社会的入院患者)が多数存在する。この現状は、国による精神障害者に対する隔離収容政策が招いた人権侵害である。このような中、2014年(平成26年)7月、厚生労働省の「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」(以下、「検討会」という)において、「病床の適正化により将来的に不必要となった建物設備を有効活用する」として、精神科病院の病棟をグループホーム等の施設(病床転換型居住系施設)に転換することを認める方向性が取りまとめられた。厚生労働省は、今後、方策の具体化に取り組む予定としている。本年1月に日本が批准し、2月に発効した障害者権利条約は、障害のある人が、障害のない人と等しく、居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有し、特定の生活施設で生活する義務を負わないこと、地域社会における生活及び地域社会への包容を支援し、地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な地域社会支援サービスを利用する機会の確保を締約国の義務としている。精神科病棟をグループホーム等の居住系施設に転換して入院患者の退院先としても、生活の場は病院の敷地内に留まり、精神障害者を地域社会から分離している現状を存続させることになるのであり、病床転換型居住系施設は、条約が求める「地域社会への包容・共生」に逆行するもので容認できない。検討会では、精神障害者本人の自由意思に基づく選択の自由が担保されること、地域移行に向けたステップとしての支援とし、基本的な利用期間を設けることなどの条件付けを行うとしている。しかし、地域資源が不足している現状では選択の自由を担保する前提に欠けるし、2004年(平成16年)8月の精神保健医療福祉の改革ビジョンにおいて、達成目標として設定されたとおりに精神病床が減少していない経緯を鑑みれば、病床転換型居住系施設も一度整備されれば恒久化してしまい、形だけの地域移行になる危険性が否定できず、真に地域に根差した生活への移行を骨抜きにしてしまうおそれがある。国は、これまでの地域移行に対する取り組みの遅れを反省し、病床転換型居住系施設整備により病床数や長期入院患者を減らすのではなく、地域福祉サービスの充実、地域における住環境整備、地域医療の充実等、地域の受け皿づくりの実現という真の地域移行に直ちに取り組むべきである。当会は、精神科病院の病棟を居住系施設に転換することに強く反対し、国に対し、障害者権利条約等に従い、精神障害者が退院して地域社会で生活することを保障する施策を図るよう求めるものである。
2014年(平成26年)8月27日仙台弁護士会 会長齋藤拓生

平成26年08月19日 「特定秘密の指定及びその解除並び適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」に対する意見書
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2014年(平成26年)8月19日
内閣官房特定秘密保護法施行準備室「意見募集」係 御中
仙 台 弁 護 士 会
会長 齋 藤 拓 生
仙台市青葉区一番町2丁目9番18号
電話 022-223-1001
第1 はじめに
特定秘密保護法は,国民の知る権利やプライバシー権等の人権を侵害し,国民主権にも抵触する重大な問題を孕んでいる。したがって,同法は廃止されるべきであり,少なくとも抜本的な見直しがないままの施行は許されない。そして,法律自体に憲法上の問題がある以上,それに基づく運用基準も制定されるべきではない。また,この点を置くとしても,2014年7月24日付けで公表され意見募集がなされている「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」(以下「運用基準案」という。)にも看過し難い問題があるため,以下のとおり意見を述べる。
第2 意見
1 総論
(1)法形式について
 そもそも法律で定めるべき重要事項を政令及び運用基準において定めているという法形式自体に問題がある。 政令及び運用基準は,法律の委任を受けて政府が定めるとされているが,白紙委任に等しい項目もあり,国民の権利義務に直結する重要事項は法律で定めるべきとの原則に照らしても問題がある。また,政令や運用基準が,法律と異なり,国会の議論を経ることなく改廃できる点においても大きな不安が残る。
(2)意見の観点
 前記第1で述べたとおり,当会は,特定秘密保護法は廃止されるべきと考えるが,本意見書では運用基準案について,①特定秘密保護法の濫用的な運用を抑制できないこと,②特定秘密保護法の委任の範囲外の事項を定めていること,③特定秘密保護法の問題点がより一層明らかになったこと,の観点から意見を述べる。
2 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「1 策定の趣旨」について
(1)意見
 特定秘密の指定の範囲を極力限定すること,指定の恣意性の排除を担保することを「策定の趣旨」に明記していないのは不適切である。
(2)理由
 「策定の趣旨」では,「特定秘密の漏えいの防止を図るとともに,その適正を確保する」ことを掲げているが,全体として特定秘密指定された情報の漏えいを防止することに力点が置かれ,特定秘密の指定範囲の限定や恣意的な指定の排除といった国民の知る権利への配慮や秘密指定の適正さの担保の観点が欠落している。
 3 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」の「(1)拡張解釈の禁止並びに基本的人権及び報道・取材の自由の尊重」について
(1)意見
 国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)を踏まえておらず不適切である。また,ツワネ原則で示されている諸原則が特定秘密保護法に明記されていないこと自体が不適切である。 (2)理由
 国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)で定められている以下の諸原則が特定秘密保護法や運用基準案では定められておらず,恣意的な秘密指定を抑制することができず,不適切である。
①国民の情報アクセス権を制限する正当性の証明が政府の責務であることの明示(原則1,4)
②政府が秘密にしてはならない情報の明示(原則10)
③秘密指定が許される最長期間の明示(原則16)
 (特定秘密保護法第4条は秘密指定の有効期間を定めているが,同条ただし書では永久秘密を認めており,最長期間の明示が不徹底である。)
④国民が秘密解除を請求するための明確な手続規定(原則17)
⑤全ての情報にアクセスできる独立した監視機関の設置(原則6,31~33)
⑥内部告発者の保護規定(原則37~46)
⑦一般国民は秘密情報を求めたり入手したりしたという事実を理由にした刑事訴追をされない(原則47)
 4 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」の「(2)公文書管理法と情報公開法の適正な運用」について
(1)意見
① 特定秘密指定の有効期間の長短にかかわらず,恣意的な文書廃棄を防止するための具体的措置が明記されていないのは不適切である。
② 特定秘密指定についての政府の説明責任が不明確である。
(2)理由
① 特定秘密に指定される情報は,国家の安全保障に関するものであるから,基本的に歴史資料として重要なものであると認められる。したがって,事後の検証を確保するために,特定秘密に指定された情報を記録する公文書については恣意的に廃棄されない仕組みが必要不可欠である。しかし,特定秘密保護法や運用基準案ではその仕組みが無く,恣意的な文書廃棄を許容するかたちになっている。② ツワネ原則(原則1,4)にも示されている点であり,国民主権の下では国政に関する情報は国民に開示されるのが大原則であり,政府は特定秘密指定する場合には,当該情報を特定秘密にした具体的根拠について説明する責任がある。しかし,特定秘密保護法や運用基準案ではこの点が明記されておらず,恣意的な特定秘密指定をしても抽象的な説明のみに終始し,国民がそれを追及する可能性を閉ざしている。
 5 運用基準案「Ⅰ 基本的な考え方」の「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」の「(3)特定秘密を取り扱う者等の責務」について
(1)意見
 特定秘密取扱者等が違法秘密や疑似秘密(時の政府の政治的利益のために特定の情報を秘匿する目的で指定される秘密)に接したときには通報の措置をとる責務が無いのは不適切である。
(2)理由
 恣意的な特定秘密指定を排除するためには特定秘密取扱者等からの通報も重要な意義を有するところ,特定秘密取扱者等の責務として違法秘密や疑似秘密に接したときの措置を定めていないのは不適切である。
 6 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(1)別表該当性」について
(1)意見
違法な行為に関する情報が除外されていないのは不適切である。
また,特定秘密保護法で定められていない米軍に関する情報までをも運用基準案に盛り込むことは法律の委任の範囲を逸脱しており不適切である。 運用基準案に示されている事項は抽象的・広範であり,具体的な対象が示されていない。そのため,限定機能を果たしておらず,特定秘密の範囲が広範であるという特定秘密保護法の問題点は何ら解消されていない。
(2)理由
 例えば,運用基準案の別表第1号のイa(b)では「自衛隊の情報収集・警戒監視活動」が定められているが,ここには仙台地裁平成24円3月26日判決(判例時報2149号99頁)において,「各原告がした活動等の状況にとどまらず,これら各原告の氏名,職業に加え,所属政党等の思想信条に直結する個人情報を収集」しており,「人格権を侵害」し違法であるとされた自衛隊情報保全隊による国民監視活動も含まれることになる。自衛隊情報保全隊国民監視訴訟における自衛隊情報保全隊長等の証人尋問申請に対して,防衛大臣は民事訴訟法第191条第2項に規定する「公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある場合」に該当するとして証言することの承認を行わない旨回答しているが,特定秘密保護法施行後は特定秘密に指定されているという理由のみで証言の承認を拒否するおそれがあり,違法行為が国民に知らされないことが「保障」されてしまう。 運用基準案の別表第1号のイbには「アメリカ合衆国の軍隊(以下「米軍」という。)の運用」が明記されている。しかし,これは特定秘密保護法には明記されていない事項であり,明らかに法律の委任の範囲を逸脱している。 運用基準案によっても特定秘密の範囲は限定されておらず,広範な情報を特定秘密にし,刑事罰の威嚇をもって国民から遠ざけるという特定秘密保護法の問題点は何ら解消されていない。
 7 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(2)非公知性」について
(1)意見
 非公知性の判断は,客観的になされるべきであり,少なくとも外国の政府により公表・開示されたり,報道機関により公表された情報は一律に非公知性の要件を欠くとすべきである。
(2)理由
 国民の知る権利保障の観点からは,当該情報が国民が知り得べき状態に至った場合には一律に非公知性を欠くとするのが適切である。
 8 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(3)特段の秘匿の必要性」について
(1)意見
運用基準案で示されている例示は抽象的であり,不適切である。
(2)理由
 当該情報の漏えいにより「我が国の安全保障に著しい支障を与える事態が生ずるおそれ」の有無は具体的になされるべきであり,運用基準案に例示されている程度の抽象的判断では限定機能を果たさない。
 9 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「1 指定の要件」の「(4)特に遵守すべき事項」について
(1)意見
 「イ 公益通報の通報対象事実その他の行政機関による法令違反の隠蔽を目的として,指定してはならないこと」の「隠蔽を目的」は不要である。また,公益通報の対象事実その他の行政機関による法令違反は特定秘密指定してはならないことは,特定秘密保護法に明記すべき事項である(前記第2-3参照)。
(2)理由
 「隠蔽目的」という主観的要素が加えてしまうと,法令違反を特定秘密に指定する際に隠蔽目的は無いという口実を与えることになる。10 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「3 指定手続」の「(2)」について
(1)意見
① 「行政機関の長は,指定する際には書面又は電磁的記録により,当該指定に係る情報を他の情報と区別することができ」は「区別しなければならず」となっておらず,不適切である。
② 「指定の要件を満たしていると判断する理由」は,具体的に記述されるべきであり,特に,別表該当性については,単に別表に該当するだけでなく,その具体的事情が明記されるべきところ,運用基準案ではそこまで言及しておらず不適切である。
(2)理由
① 特定秘密を明確にするためには,当該指定に係る情報と特定秘密として取り扱うことを要しない他の情報とは,常に区別することが求められるというべきである。
② 「指定の要件を満たしていると判断する理由」が形式的・定型的な記述で良いとすれば,特定秘密の要件を定めた趣旨が失われるおそれが大きいので,「指定の要件を満たしていると判断する理由」は具体的に記述されるべきである。特に,別表該当性については,単に別表に該当するというだけでは実質的には理由が全く記述されていないのとを同じであるから,具体的事情まで記述されるべきである。
11 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「3 指定手続」の「(4)」について
(1)意見
 災害時の住民の避難等国民の生命及び身体を保護する観点から,特定秘密の指定を解除すべきとされる情報は,そもそも特定秘密指定の対象とすべきではない。
(2)理由
 上記情報は,本来,被災時に国民が適確に判断して避難できるように広く公開されるべきであり,特定秘密指定にはなじまない。
12 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「4 指定の有効期間の設定」について
(1)意見
 情報通信技術の動向に密接に関係する情報については,指定に理由を見直すに当たって適切な最も短い期間を「3年等」としているのは不適切である。
(2)理由
情報通信技術の発展速度に鑑みれば,3年等は長すぎる。
 13 運用基準案「Ⅱ 特定秘密の指定等」の「6 指定した特定秘密を適切に保護するための規程」について
(1)意見
 特定秘密の保護措置は,政令や運用基準に委ねるのではなく特定秘密保護法で明記すべきである。
また,施行令案第12条第1項第10号は特定秘密の漏えいのおそれがある緊急事態に際して特定秘密文書等の廃棄を定めているが,これは法律の委任の範囲を逸脱するものであるから削除すべきであり,運用基準案からも削除すべきである。
(2)理由
 特定秘密の保護措置は,特定秘密の保護を目的とする法律の中心的な事項であるから,本来法律で明記すべき事項である。にもかかわらず,政令や運用基準に委ねることは,国会によるチェックを無にしてしまうものであって適切ではない。また,施行令案第12条は特定秘密保護法第5条第1項に基づくものであるところ,同項では政令への委任の範囲として特定秘密文書等の廃棄にまでは言及していない。にもかかわらず,政令や運用基準案で廃棄を規定することは法律による委任の範囲を逸脱するものである。
 14 運用基準案「Ⅲ 特定秘密の指定の有効期間の満了,延長,解除等」の「1 指定の有効期間の満了及び延長」の「(1)指定時又は延長時に定めた有効期間が満了する場合」について
(1)意見
アないしオに掲げられた情報について,特定秘密指定の有効期間を延長する前提での記述となっており不適切である。
(2)理由
アないしオに掲げられた情報は役割を終えた情報であるから,特定秘密として保護する必要性は認められない。
 15 運用基準案「Ⅲ 特定秘密の指定の有効期間の満了,延長,解除等」の「3 指定が解除され,又は指定の有効期間が満了した当該指定に係る情報を記録する行政文書で保存期間が満了したものの扱い」の「(2)指定の有効期間が通じて30年以下の特定秘密」について
(1)意見
 指定の有効期間が通じて30年以下の特定秘密も,すべて国立公文書館等に移管すべきであり,法律で明記すべきである。
(2)理由
 特定秘密に指定される情報は,国家の安全保障に関するものであるから,基本的に歴史資料として重要なものであると認められる。したがって,事後の検証を確保するために,特定秘密に指定された情報を記録する公文書については恣意的に廃棄されない仕組みが必要不可欠である。
 16 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」の「(1)プライバシーの保護」について
(1)意見
 同意を得る対象に評価対象者の家族同居人も加えていないのは不適切である。また,この点が特定秘密保護法に明記されていないことも不適切である。
(2)理由
 適性評価の実施においては,評価対象者のみならず家族同居人のプライバシーも関わる以上,彼らのプライバシー情報を同意無く取得することは不適切である。
 17 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」の「(2)調査事項以外の調査の禁止」について
(1)意見
 「適法な」政治活動及び労働組合の活動の内容が曖昧であり,不適切である。信教の自由への配慮がないのも不適切である。禁止事項に違反した調査を行った職員に対する懲戒処分その他適切な措置を講ずることの明記がないことも不適切である。 以上の点が特定秘密保護法に明記されていないことも不適切である。
(2)理由
 政治活動や労働組合活動に「適法な」と限定を付すことにより,その内容の曖昧性,第一次判断者が政府や行政機関となることに鑑みると,恣意的判断のおそれや萎縮効果の危険がある。
また,警察庁や自衛隊情報保全隊はイスラム教徒やその団体を「国際テロ容疑」で調査していたことが明らかになっており,このような調査が信教の自由を侵害していることは明らかである。このような違法な調査を禁止する措置が特定秘密保護法や運用基準案で明記されていないのは不適切である。プライバシーや思想信条の自由,信教の自由等の保護の観点からは,禁止事項に違反した職員に対して懲戒処分その他適切な措置を講じる必要があるところ,その記述がないのも不適切である。
 18 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」の「(3)適性評価の目的外利用の禁止」について
(1)意見
 目的外利用の禁止の範囲を「人事評価のために」に限定するのは不適切である。また,禁止事項に違反した調査を行った職員に対する懲戒処分その他適切な措置を講ずることの明記がないことも不適切である。この点が特定秘密保護法に明記されていないことも不適切である。
(2)理由
 特定秘密保護法第16条は,特定秘密の保護以外の目的で適性評価の結果やその実施に当たって取得した個人情報の利用・提供を禁止している以上,運用基準案で「人事評価のために」に限定するのは不適切である。プライバシー保護の観点からは,禁止事項に違反した職員に対して懲戒処分その他適切な措置を講じる必要があるところ,その記述がないのも不適切である。
 19 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「4 適性評価の実施についての告知と同意」の「(1)評価対象者に対する告知」について
(1)意見
① 別添1の「告知書」の「2 適性評価で調査する事項」のうち,特定有害活動及びテロリズムの防止に関する事項が具体的でなく,不適切である。
② 別添1の「告知書」の「3 調査の方法」において,個別的に同意書をとることを前提にしていないのは不適切である。
(2)理由
① 特定有害活動及びテロリズムの防止に関する事項が具体的でないため,どのようなことが調査されるのかが不明であり,同意不同意についての正確な判断を阻害しかねない。
② 調査開始前に同意書を提出するため,評価対象者は,どのような事項について,どのような調査(調査のためにどこに照会するのか,どのような内容の調査をするのか等)が具体的に分からないまま同意書の提出を余儀なくされる。このような同意書をあらゆる調査についての包括的同意を与えたものとすることは,白紙委任を認めたに等しくプライバシー保護の観点からは不適切である。
 20 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「4 適性評価の実施についての告知と同意」の「(2)同意の手続」について
(1)意見
① 包括的な同意は不適切である。
② 評価対象者の家族・同居人を調査する際に彼らから同意書を取得しないことは不適切である。
(2)理由
① 別添2-1の「同意書」では,「私の知人その他の関係者に」質問させ,資料の提出を求めさせることに同意する旨の記載がある。しかし,これではどの範囲の知人その他の関係者なのかが不明であり,白紙委任的な内容である。このような同意取得の手続では,真の同意を取得したことにならない。
② 特定秘密保護法第12条第2項第1号は,評価対象者の家族・同居人の氏名,生年月日,国籍(過去に有していた国籍を含む。)及び住所を調査事項と定め,同条第4項ではさらに調査することも認めている。これらは個人情報に該当するところ,家族・同居人の同意を取得せずに調査することはプライバシー保護の観点からみて不適切である。
 21 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「4 適性評価の実施についての告知と同意」の「(3)不同意の場合の措置」について
(1)意見
不同意書面を要求するのは不適切である。
(2)理由
 添付3の「不同意書」には,不同意の結果「特定秘密の取り扱いの業務が予定されていないポストに配置換となること等」があることが予告されている。「配置換となること等」という不明確な取扱いの予告は,評価対象者に強い不安感を与えるものであり,事実上同意を強制することにつながるおそれがある。
 22 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」の「8 苦情の申出とその処理」の「(1)苦情の処理のための体制」及び「(3)苦情の処理の手続」について
(1)意見
 苦情処理担当者には,当該苦情申立をした評価対象者の適性評価の実施に直接従事した職員のみならず,調査の過程で質問や資料提供に応じた職員も指定されるべきではない。
(2)理由
 適正に苦情処理を行うためには,当該適性評価の実施に関与していない者が行うのが適切である。
 23 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「3 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の検証・監察・是正」の「(1)内閣府独立公文書管理監(仮称)による検証・監察・是正」について
(1)意見
 内閣府独立公文書管理監(仮称)及び内閣府情報保全監察室の独立性を確保するためには,構成員に弁護士,研究者その他外部の有識者を入れ,行政機関から就任する構成員についてはいわゆるノーリターン・ルールを導入すべきである。
(2)理由
 内閣府独立公文書管理監及び内閣府情報保全監察室も内閣府に設置される組織であり,独立性・中立性には問題がある。そこで,少なくとも構成員については独立性・中立性が確保できる措置を講じるべきである。
 24 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「3 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の検証・監察・是正」の「(2)行政機関の長による特定秘密指定管理簿の写しの提出等」について
(1)意見
 内閣府独立公文書管理監に特定秘密に対するアクセス権限が認められていないのは不適切である。
(2)理由
 運用基準案では,行政機関の長は内閣府独立公文書管理監からの特定秘密の提供の求めに対して拒否できることになっている。しかし,これでは特定秘密の指定の適正を検証・監察・是正することは不可能であり,ツワネ原則31~33にも反している。
 25 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「4 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の適正に関する通報」の「(1)通報の処理の枠組み」,「(2)通報の処理」について
(1)意見
 通報窓口が行政機関と内閣府独立公文書管理監に限定されており,いずれの対応も不十分だった場合における通報の手段が無いのは不適切である。また原則として最初に行政機関の通報窓口に通報する仕組みとしていることは,不適切である。
(2)理由
 行政機関及び内閣府独立公文書管理監の通報処理が不十分な場合の仕組みがなければ,特定秘密指定の適正確保は実現できない。
また,行政機関の通報窓口に通報しても適正に処理されるか疑わしい面もあり,通報者も心情的に躊躇してしまうおそれがあるため,少なくとも独立公文書管理監への通報も自由に選択できるような仕組みにすべきである。
 26 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」の「5 特定秘密保護法第18条第2項に規定する者及び国会への報告」について
(1)意見
報告事項が基本的に件数のみであり,適切な監督が期待できない。
(2)理由
 件数のみの報告では,概要すら知ることができず,報告に基づいた適切な監督を行うことは不可能である。以 上