日別アーカイブ: 2017年7月28日

1787 外国法事務弁護士②

── 社内でやるためには,法務部が,言語の能力,法律的な能力,その会社の問題の特殊性,この3つが分かっていないと正確なチェックはできない。それはなかなか荷が重いことだと思う。
ハンセン:そうだ。あとは,チェックするというところでの考え方が若干違うと感じる。チェックするだけではなく,考えて何か新しいものを得られないかとか,そういう想像力もとても不可欠だと考えるし,法務機能として誤って期待されてないところと感じている。
また,裁判所においてどこまでちゃんと理解して執行してくれるのかという問題もある。
例えば,契約書を細かく定めても,裁判所において正確に書いたままに解釈して判決を出してくれなければ書いてもしょうがないところがある。それで,よく分からないが,もし日本の契約実務においてよりあいまいな契約書を作ることが定着しているのであれば,その理由は日本の裁判所がどう解釈して執行させるのかをある程度予想しているからであろう。
ミュラー:裁判所は,その文言だけを見て判決を出す役割ではないと思う。
ホジェンズ:従って,裁判所のあり方も契約書に対する期待に影響を及ぼしている面があると思うが,もう1つは根本的な考え方,あるいは期待感が違うという面があるのかと思う。外資系企業と日本企業が契約の交渉をし,合意した内容を文章に落とすところを見てきた自分の経験から比較してみると,日本企業の考え方は,内容としては基本を押さえていればよいと。契約締結してから,何か予想していなかった,考えていなかったことが後になって出てきたら,そのときに協議して解決すればよいというアプローチがある気がする。その証拠として,日本の契約書には必ず信義則に基づいた解決の条項が入っている。
ミュラー:日本の法人の法務部,あるいは日本の弁護士の考え方で気になる点が1つ。日本は2009年に国連の条約であるウィーン売買条約*1に加盟した。海外との取引は,除外しなければ自動的に必ずウィーン売買条約が準拠法になるのである。見なし準拠法である。日本の弁護士は除外することを進めることが多いようだ。ウィーン売買条約に関しては,全体的にのむか,除外するかという進め方以外の選択もある。ウィーン売買条約は民法と同じように,ある条文はそのままのむが,また別の条文は少し改正して,訂正するとか,そういう調整は自由にできるのである。そこはあまり日本で認識されていなくて,私が見た限りでは除外することが9割近くあるので,そこは損をするケースもあると思う。
ウィーン売買条約は便利なことがあって,必ず加盟している国々の1対1の翻訳がある。完璧な日本語の翻訳がある。日本で適用している翻訳を見れば早い。海外の法律を見ることも必要ない。例えば準拠法がドイツ法であっても,この日本語訳を見ればよいのである。
── 契約も法律によって適用され,法律によって規制されるが,法律そのものに対する考え方がそもそも違うと思われることはあるか。
ハンセン:あくまで日本の裁判所のことを知人の弁護士から聞いている話に基づくが,先ほどの契約のところとも関係し,そのまま実行されるために契約書が作られているのか,それともあとから悪役を罰するように裁判所に判断させた方がいいのかという違いがあろう。要は,ニューヨークの裁判所で契約書を持ち込んでいくと,基本的に契約文言通りに判決が出る。例えば,理由はともあれ,1,000億円と契約書に書いてあったら,そのままの数字で判決が出る。特に大手企業同士の契約を解釈するのに当たっては,公平か否かは関係がない。しかし,日本の場合は,いやいや,そんなことは不公平だからとか,正義の点からいえばそうではない筈であるとか,場合によっては,契約書の文言どおりの判決が出ないことがアメリカと比べて多いと聞いている。だからそういう意味で,裁判所の契約に対する考え方が根本的に違うのではないかと考える。
ミュラー:一般的な考え方がどう違うか。ドイツでは自分の権利に対する意識が非常に高い。だから自分の権利を守るとか,自分の権利を請求することは,個人でも会社でも非常に考える。法律が自分の権利を守るためのものであると認識していることが一般である。日本では,法が自分の権利を守ってもらうためのものであるということの認識が,そういう考え方が少し違うかもしれない。自分の権利を守るために法律を利用しなければならないという考え方は日本にはそれほどないと思う。
ホジェンズ:その通りだ。先ほどの,日本の場合は訴訟があまり多くない,なので判例があまりないという点にもつながる。要するに一般市民,つまり普通の人の法律に対する考え方が違うと感じることは多少ある。あくまでも印象の話だが,何か問題が起きたとき,自分が不利になったとき,あるいは損害を被っていたときに,なぜ,もっと弁護士を使って訴訟に持っていこうと思わないのかと。結局,企業の場合も,法律に関する考え方が同じようなことはある気がする。要は弁護士や裁判所を使って問題を解決するよりも,お互いの話し合いで解決しようという考え方が日本では主流と思う。
ミュラー:日本で初めて法律関係で驚いたことにも関係するが,日本では全般的な弁護士費用保険がないことも驚いた。
例えば日本でも車を持っていると弁護士費用保険に入っていることがあるが,ドイツでは車に限らない全般的な弁護士費用保険なのである。ということは,争う場合はその保険の方が弁護士報酬とか裁判費用を全部負担するのである。そうすると費用が掛からず裁判をやりやすい。アメリカ,オーストラリアは,そういう保険はあるだろうか。
ハンセン:アメリカでは,会社によっては従業員の福利厚生として保険に加入した場合,トラブルに巻き込まれたときにその会社が選んだ弁護士を使ってよいという制度があるが,一般的に普及しているわけではないように感じている。日本でも,知り合いのお父さんが亡くなられて,弁護士を使うと費用が掛かるから使った方がいいのか,使わない方がいいのか,かなり迷ったが,完全に金銭的に考えていたわけだ。
彼の場合は少なくとも費用の面でしか考えてなかったのだが,人それぞれで,集団で見るとそれは文化なのか。そもそも文化というのは社会においてインセンティブの下に作られたものなのかとか,そういう話にもなってくる。
ホジェンズ:関連するかもしれないが,実際に日本に来てから間もないころの話。これは海外で起きたヘリコプター事故で,日本人の方が亡くなられた案件だったが,日本の弁護士チームを少し手伝っている中で,とにかく日本で裁判になったときに損害賠償金として日本の裁判が支払いを命じる額は,平均して海外と比べてあまりにも低いことを知ってびっくりしたことがある。
ミュラー:私はドイツ以上に高いことにびっくりしている。ヨーロッパで列車事故の案件があって,日本人のけが人が何人かあった。例えば腕を切った場合,それぞれの損害額が日本ではいわゆる赤本で大体決まっているのであるが,ドイツの2倍か3倍になって,ドイツより全然高かった。
ハンセン:アメリカの場合だとたぶんオーストラリアに似ていて,その人の将来の報酬などを参照して計算していくわけだが,その人が今後出世するかどうかなど,いろいろ分かりかねるところがある。それで結果が予測しきれることはほとんどなく,リスクが双方に
高い分,争ってもいいとか,結果が分からないから争う価値があるということになるのである。争っても結果が見えているとなると,弁護士費用がかからないように,争わないで決まりそうな額で和解するのが双方的にいいので,その分弁護士が関与する案件が減るのも理解できる。
── 日本との取引で注意をしていることは? また,仕事をするときに日本人の弁護士に何を期待するかを一緒に言っていただけるだろうか。
ホジェンズ:日本での取引で注意をしていることは,外資系のクライアントが日本にやってきて日本の企業と取引をする場合,外資系の企業と日本の企業のやり方が組織的にそれぞれ違うということだ。具体的に言うと,日本の企業の場合にはその内容がまとまったとしても,内部の手続き(稟議)を取る必要がある。よく交渉の場で直接企業を代表している人間から言われたが,要は承認を取るのに時間がかかると。なので,これはハンセンさんが話してくれると思うが,M&Aなどのスピード感の速い取引の場合には少し不利になる部分もある。だから外資系企業が日本の企業と取引する場合には,この辺は少し時間
がかかることをまず念頭に置いておく必要があると説明をする。
一緒に仕事をするときに日本人の弁護士に何を期待するかということだが,これはインバウンドのときでも,アウトバウンド,つまり,日本企業を代理して海外で取引をする場合でも,適切な人材を集めたチームを作ることをまず期待する。
── 要するにチームを組んで,より早い解決方法ないし正しい解決方向を示してほしいということだろうか。
ホジェンズ:そうだ。
ミュラー:まず,日本人との取引で注意していること。
外国法事務弁護士,外弁として外弁法*2に従って活動している。それは注意する事項の1つだが,それは別にして,業務の内容の打合せのときとか,業務の当事者と同時に交渉するときに私は参加する場合がよくあるが,そこで法律業務だけではなくメンタリティーの仲介をする役割も結構あると感じている。
だからお互いのメンタリティーを考慮して進め方を調整することは大事と思う。ドイツで弁護士として活動するときは,両方の当事者のメンタリティーはどうかなどあまり考えない。ドイツの観点でアメリカと取引する場合は多少あるが,アメリカ人と多少考え方は違うが,でも一般的に法律はどういうものかという考え方,自分の権利を守るなどの考え方は一緒である。だから対アメリカの場合は自分に有利な契約になるように交渉を進めることは通常である。日本の場合はそうではない場合もある。
──どういう場合だろうか。
ミュラー:具体例としては,契約でも取引関係でも訴訟でも同じだが,会社としては何か経済的な目的があるはずである。その経済的な目的を十分考慮した上で契約の内容を修正するべきである。例えばドイツからドラフトが来て,品質チェックは3日間以内にしなくてはいけないとか,注文を受け取ってから3日間以内に異議をしなければ契約を合意したことと見なされるとか,そういう条件がよく書いてある。ドイツ国内であれば2日とか3日以内はあり得るが,日本とドイツでの国際取引では無理である。日本側がメーカーであると,生産部の方に確認して,本当にこの期間でこんな量を作ることができるのか,この価格でできるのかとか確認しなくてはいけない。だから法律業務ではないのに,本当に3日間でいいのだろうか,という質問をまずする。
──してあげると。
ミュラー:そうだ。ドイツではこのようなことは会社が準備して考えるのである。だから契約ということは交渉するものだということ。それを自分の会社としての経済的な目的を考えて内容を修正するとか,そこら辺の考えが弱いことが多いと思う。そこは自分は弁護士としては注意して一緒に考えてあげる。だから法律業務を超えてしまうことは結構あるが,結局はお客さんのためになると私は思う。日本の弁護士に期待することだが,一番は,契約を作成する時点で準拠法が日本のものでない場合にはなるべく早く連絡していただくことである。
1つの具体例は,過去に一番私が驚いたことは,損害賠償請求の案件。ドイツのメーカーが日本で設備をつくった。その設備がまったく機能せず,賠償を請求することになった。
準拠法はドイツ法であったが裁判管轄が不明瞭だったので,会社と弁護士が,まず日本で訴訟をやってみようと。日本の裁判所ならドイツよりも,理解してくれるだろうから,まず日本で訴訟をやりましょう。
それでだめだった場合はまた考えればよいのだと。それから日本の裁判官は契約を見て,どうも日本に管轄がないと。問題は日本で証拠を全部集めて訴訟をやるのに時間がかかりすぎてしまったこと。
それから結局,急遽ドイツで裁判をやる為ドイツの弁護士を探そうということで,それでこちらに連絡が来た。案件を見たら,時効消滅になりそうだった。あと1カ月だったのだ。1カ月で訴状を書いてドイツで裁判所に提出することは無理だった。だから大ざっぱに3ページだけのレビューでまず提出して,それで証拠は後から提出することをドイツの裁判所は認めてくれたからよかったのだが。
ホジェンズ:それはとても良い例だと思う。やはり外国資格の弁護士と日本人の弁護士がチームを組めば,そういうリスクは十分回避できると思う。
ハンセン:これは日本独特の問題でもなく,国際取引案件を担当するに当たっては,その国,その地域のこの案件の取引に専念している弁護士に聞かないとまずやらないというのは国際的に1つの常識になっているかと思う。
例えば我々はハノイにオフィスがないので,ベトナムにおける取引を例えばアメリカからやる場合でも,確実に現地の事務所と最初から連携しながらやるものだから,チームを当初から組むのはまずスタートラインに立つためにとても必要なところだ。
日本での取引のことだが,必ず日本の弁護士に最初から密に連携していくことは不可欠だと考えている。その弁護士に何を期待するのか。海外の方が期待していることとなると,スピード感はおっしゃる通りで,クライアントはそれなりに国際的にいろいろやってきているわけだから,おそらくやりたいことがあるだけではなくて,従いたいやり方もある。こういうふうにやりたいと。それは日本においてワークするかどうかは分からない。そうすると,日本の弁護士に,それはワークするかどうかというのをまず確認していただく。ではワークしないといわれて終わりかというと,そういうことはない。ワークしないのであれば,では一番クライアントの希望に近いやり方且つ日本においてもワークする方法にどう導けるのかを日本の弁護士から期待しているということである。だからそれができる弁護士もたくさんいると理解しているので,それがチームに入ってもらえると本当にありがたい。そしてスピード感,想像力,本当にやりたいことに一番近くまでどう行けるのかを一生懸命考える能力を備え合わせ,クライアントに積極的に提案してくれる,そしてよくチームとして連携してくれるというのが本当に重要なところかと思う。海外案件は当然ながらそうだが,どの案件でもチームワークはとても大事だと思う。
── 来日した当時と今の日本の状況とで変化を感じることがあったらどうぞ。
ホジェンズ:初めて日本に来たのが1980年だ。それは短い期間だったのだが,2回目は留学生として来たときである。その後,日本で社会人としての経験をしてみたいということで就職した。80年代の,まさにベストセラー本の題名の通りで,ヴォーゲル氏の著作『ジャパン・アズ・ナンバーワン』だった時代である。高度成長期で,社会全体が,たぶん,今,安倍首相が期待しているような非常に生き生きと活発だった時代である。
弁護士として17年前に来たときは,残念ながら,その当時と比較して,バブルがはじけて,まず成長率が低くなっていて,様々な社会的問題を抱えるようになっていたので,双方の時代が違うのは強く感じた。
ミュラー:ホジェンズ弁護士と似ているが。私も1983年,19歳のときに最初日本にきたので,80年代と現代の日本を比較すると,かなり内向きになっているかと思う。最初3年滞在してそれから帰国して大学に通って,日本に事務所をつくったのは10年前で,10年前にまた来た。80年代と10年前の日本と今の日本は3段階で比較できるが,顕著なのは,内向きになっていることである。
島国であることは感じている。私は日本のことが大好きだが,あまり内向きの方向で続くと日本の将来は少し心配になる。そこは弁護士の世界もそう。若い弁護士で海外に行ったことがない方を何人も知っている。
ハンセン:初めて来たのがホジェンズ弁護士のご招待でそちらの事務所に行ったのは10年ぐらい前なので,そんなに昔のことではない。震災前と震災後ぐらいだろうか。そのときは震災前で,今回の赴任は3年半ぐらい前なので震災後だが,実際の差を感じることはあまりない。食の安全を心配している人が多くなっているのと,あと港区の中での欧米人の数が減っているのではないか。それぐらいだろうか。
──それは本国に帰られたということだろうか,それとも地方に行かれた?
ハンセン:香港とかシンガポールとか,アジアの本社を移して別のアジアに行ったことが多いと思う。
──プロボノ活動及び弁護士の社会的役割についていかがだろうか。
ホジェンズ:我々は渉外事務所として常に企業を相手にしているが,そういうクライアントの間でも,最近,CSR(Corporate Social Responsibility)*3に対する関心は高まってきている。自分のクライアントと並行して,私たちも同じように社会貢献について考える,
あるいは活動することが期待されていると思う。
ミュラー:プロボノ活動という言葉はアメリカから来ている。アメリカはプロボノの活動,非常に必要である国だと私は思う。なぜなら,そこは,最近は少しできたが,一般的には社会保険制度もないし,収入がない人が自分の権利を守るための支援がアメリカでは必要である。ドイツでは条件が違うのである。
例えばまったく収入がない人が裁判手続きをするには,ちゃんと証拠がそろえば裁判費用,弁護士報酬,すべて国が負担する制度がある。だからドイツでは法律事務所が何かプロボノでやる必要性がなく,弁護士の申請で国が費用を負担する。但しこの制度も当事者に住所がなければ不可能であるという問題があるので,ホームレスを助ける活動などがドイツでもある。日本でもプロボノの活動もその辺は似ているところもあり,最近は多くなってきているかと思う。日弁連の宇都宮健児元会長は貧困問題などをやられていて,そこは感動した。
ハンセン:同じように事務所として社会貢献を促している。個人的には難民認定申請の行政訴訟を担当したり,民事訴訟を手伝ったりすることがあったが,日本に来てからある程度減ってしまった。日本において裁判に行けることはないのでそういう機会はなかなかないが,国際的なものがあった際に多少手伝ったりすることがある。
ミュラー:ハンセン弁護士がおっしゃった難民認定申請は,最近は例外としてドイツ国内の弁護士でも,プロボノの活動がさかんだ。難民がすごくたくさん入ってきたので,友達の弁護士もドイツで助けている。
── 外弁協会*4等で話題になる日本の特殊性はあるか。
ミュラー:私はあまり詳しくないが,外弁協会の活動は資格問題について外弁法の改正が中心だと思う。
ドイツとかアメリカに比較しては弁護士及び弁護士事務所の専門性が比較的少ないと思う。
ホジェンズ:外弁資格の弁護士が日本人の弁護士の特徴についてよく言うのは,比較的専門性に欠けるということだ。これはもちろん事務所によって違うし,変わりつつもあるかもしれないが,うちの事務所でも,私が17年前に来たときはまだ規模が今の4分の1だ
ったこともあり,ジェネラリスト,つまり一人の弁護士が幅広い分野をカバーせざるを得なかった。一方,海外のクライアントから見ると,弁護士の専門性が期待されるので,それは今後の日本のマーケットの課題かと思う。
ハンセン:外弁協会に参加したことがない。
── 日弁連等の日本の弁護士会に何か物を申したいというところがあれば。
ホジェンズ:我々3人は積極的に東京弁護士会の国際委員会に参加させていただいている。日弁連は三会を統括する立場として,日本の弁護士と外国資格の弁護士との交流の機会をもう少し積極的に設けていただくとありがたい。
ミュラー:ただ,東京弁護士会だけ,あるいは三会レベルだけではなかなか難しい。特に海外に興味がある日本の弁護士の方を集めることはなかなか難しい。だから,そこは日弁連がもう少し苦労していただき,首都圏全体,例えば神奈川県弁護士会,埼玉弁護士会,千葉県弁護士会も含めて,広い範囲で全国的に交流させていただきたい。
ハンセン:今年外弁登録したばかりなのでまだ言いたい
ことがない。
(構成:味岡 康子)

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1786 外国法事務弁護士①

かつて,LIBRA の特集で「日米法律事情比較」と題し,デーブ・スペクター氏,八代英輝会員及び矢吹公敏会員による座談会を企画した(2011 年 4 月号)。今回は,東京で活躍されている外国人弁護士 3名をお呼びし,日本の法曹事情を語ってもらうことにした。もっとも,外国人弁護士とは,正式には「外国法事務弁護士」と言い,外国の弁護士有資格者が法務大臣の承認を得たのち日弁連に登録し,原則として原資格国法に関する法律事務を行うもので,日本国内での民事・刑事訴訟は職務としては行うことができない。2016 年 11 月 1 日現在,日弁連に登録している「外国法事務弁護士」は,412 名であり,うち東弁登録者は,76 名である。
参加者 3 人は,それぞれオーストラリア,ドイツ,アメリカ・カリフォルニア州の弁護士資格をお持ちであり,イギリス系,大陸系,アメリカ系ときれいに構成が分かれたことも,議論に広がりをいただいた所以である。
(味岡 康子)

日 時:2016年9月5日(月)  場 所:弁護士会館5階501会議室
出席者:クリストファー・マーク・ホジェンズ(2002年登録/オーストラリア)
ミヒャエル・アンドレアス・ミュラー(2007年登録/ドイツ)
ネルス・クリスチャン・ハンセン(2016年登録/アメリカ合衆国)

司 会:味岡康子(LIBRA 編集委員・47 期)
─ 日本に赴任することが決まった時,会社や友人,家族から言われたことは?
ホジェンズ:日本に赴任してきたのは,約17年前。周りの人や自分の家族,親なども,以前から私と日本との縁についてよく知っていたので,ベーカー&マッケンジー(以下「ベーカー」という)の東京事務所に移籍することについては特段びっくりする反応はなかった。また,ベーカーの同僚に関して言えば,日豪関係についてすでに認知度が高かったので驚いてはいなかった。当時は,日本からオーストラリアに対する投資や観光ブームがちょうど下火になったところで,自分のキャリアにとっても,東京事務所やシドニー事務所の関係から見ても,同僚の皆が後押ししてくれたと思う。
ミュラー:私も,滞在経験が以前にあったので日本との縁は前からあった。最初に日本に来たのは19歳であった。日本の文化を勉強するために3年滞在し,私の家族や友達は私が人生の中心に日本を置いていることをみんな認識していたので誰も驚いてなかった。
ハンセン:私の場合は,3年半ぐらい前に赴任した。
赴任前のパロ・アルトオフィスのトップパートナーが知日派だったので,東京オフィスへ転勤しないかと聞かれたとき,そのパートナーにアドバイスを聞いた。以前はそのパートナーも含めて色々な方が弁護士としての経験を十分積む前に行かない方がいいと言っていたが,日本への赴任が決まったときは米国現地でのM&A経験が十分あったので,行きたければ行ったらいい,行きたくなければ残ったらいいと言われた。アジアに職務経験がない他の殆どの同僚は,日本との縁が薄いので,寿司がおいしいのではないかという程度だった。
── 母国の法体制について,簡単に教えていただき,それを前提に話を進めたい。
ホジェンズ:オーストラリアは,イギリスの植民地だったので,英国の制度や法律などを数々導入したわけだが,現在のオーストラリアの法体制自体について言えば,連邦政府および州政府,準州政府の法律,それから裁判の判例によって作られている,いわゆる判例法主義と言ってよい。
ミュラー:ドイツ法はフランス法と同じように大陸法である。1871年にドイツの統一国家ができたが,ドイツ法のほとんどは,主にプロイセン一般ラント法(プロシア法)が元になっている。
ドイツ法全体はオーストリア,スイスなどのドイツ語圏をはじめ,ギリシャ,トルコ,日本,韓国,台湾,中国などの法制度の源流になる。日本の資格制度とまったく同じだが,国家試験に合格した場合は裁判官の資格,検事の資格と弁護士の資格,司法関係のそれぞれの仕事ができるようになる。日本の司法修習制度はドイツのシステムを参考にして作ったシステムである。日本の法律用語も明治維新以後,大正も含めて,主にドイツ語の法律用語を直訳して作った法律用語である。だからドイツ資格の弁護士として非常に分かりやすい。
ハンセン:米国の場合,オーストラリアと同じようにもともと英国の法律が元となっているが,それ以降数百年の歴史もあり,当然判例も憲法・法令も違ってきている。
法体制をもう少し広く申し上げると,日本の新司法試験制と同じように,ロースクール制が50年ぐらい前につくられたが,基本的に大学を卒業してから3年間勉強をしないと司法試験を受ける資格がないということになっている。日本と比べて合格者が非常に多いのも特徴の1つかと思う。毎年約5万人が弁護士になっているので,日本の弁護士の全体が
1年ぐらいでできてしまう規模の弁護士を毎年輩出している制度となっている。
また,法律事務所に限らず弁護士資格が様々な職場で評価され,弁護士資格を持っている人がかなり幅広い業務に従事しているのも特徴の1つかと思う。
ホジェンズ:1つ加えると,ミュラーさんのおっしゃるドイツ法の場合と違って,日本法はイギリスのコモンローと異なり,歴史的に判例法をあまり根拠としないところが大きな違いである。唯一,イギリス法をモデルにした日本の法律は,民法の特別損害と普通損害で,これはイギリスの有名な古い判例に基づいたものだと記憶している。
ミュラー:会社法もアメリカ法の影響を少し受けていると思う。
ホジェンズ:おっしゃる通り。日本の基本法はコンチネンタル・ローをベースにしている法律だが,戦後はどちらかというとアメリカ法の影響が大きいところもある。
ミュラー:それは会社法中心だ。例えば日本民法も今,債権法の改正準備中であろう。
そこもまた一番参考にしているのはドイツ民法になる。ドイツ民法は,少しずつ改正しながら今の民法になってきており,日本の民法も続けてドイツ法を参考にしているのでは。だからアメリカはかなりリーダーシップを取っていることは取っているが,1回できた大陸法のシステムを完全にアメリカ法に切り替えることは無理。戦後アメリカの希望はあったかもしれないが,日本は憲法だけ変えたのだ。
──では,初めて来日して驚いたことは?
ホジェンズ:実は,私が初めて日本に来たのは,先ほど申し上げた赴任したときより前で,まだ学生時代の36年前である。記憶が少し薄れている部分もあるが,最初に何に驚いたかというと,成田空港から東京までの距離のことである。タクシー代がべらぼうに高くて,それが1つの驚きであった。
ミュラー:私が最初に驚いたことは,とてもアメリカ化している印象を受けたことだ。日本に行く前に,日本の文化,日本の伝統にあこがれて,日本の伝統を大切にしている国だと当然思っていたが,日本に着いたらものすごくアメリカ的だった。そういう印象はあったのだが,何年か日本に滞在して,アメリカ的ではあるが,そこからさらに日本独自に変化している部分が結構多いと気が付いた。
ハンセン:私は,まず日本人の優しさに驚きを覚えた。初めて来日した時はホジェンズ弁護士の事務所で,インターンの機会をいただいた。その際に行き先のアパートに行こうとしていたところで,飛行機の隣に座っていた方がテレホンカードを渡してくれた。また,コインテレホンを使おうとするとコインがないので使えず,コインをいただき,居酒屋にも連れていっていただいて,いろいろ案内していただいたこともある。
その同じ夏に,道を歩いて迷っていたら,若い方が駅までずっと歩いて案内してくれた。共通の知り合いがいたのだが,何回か居酒屋に行ったり、カラオケに行ったり,優しくしていただいた。今は国会議員になっている。そのように合縁奇縁というか,不思議なほど優しくしていただいたのは驚きであった。2つ目はラーメンのおいしさに魅了されたこ
と。その2つのことが契機となって今は日本にいると思う。
── 日本での普通の一日の執務内容は?
ホジェンズ:普通の典型的な日というのはないかもしれない。例えば,クライアントとの接触もあれば,請求書のレビューなどのアドミ(総務)的な業務もあり,日によって異なる。それからパートナーなので,当然,若手の育成に関しても責任があり,そのためのトレーニングの準備や実施を行うこともある。大きい国際法律事務所なので,東京事務所の弁護士以外に,他の国の事務所の弁護士との打合せや会議などもあり,海外に出張することもある。勤務時間の平均は,私は少し遅めで,10時から21時ぐらいまで。家に帰ってからリモートで作業するのも好きなので,事務所にいる時間イコール就業時間でないところもある。
ミュラー:私も事務所を始めるのは遅めで,10時から始める。住んでいるのは結構遠くて,神奈川県に住んでいる。通勤は,駅まで15分ぐらい歩く。通勤の時間は丸1時間。遅く出ればだいたい座れる。だからそのために少しずらして遅めに行くのである。大体
9時発の電車に乗ると座れるので,ノートパソコンで電車の中で仕事ができる。前の晩にドイツから来たメールなども全部見て回答することも。それで10時以降に事務所に着いてから,クライアントとの打合せの準備など。日本のクライアントが多い。ドイツ法の案件について,ドイツと取引して,準拠法がドイツ法になっている場合は当事務所に直接来て打合せをすることが多い。
日本のお客さんは電話でのやりとりでなく,直接会って話をすることが好きだ。だから,東京のお客さんのほか,名古屋とか,遠いところは九州から来る場合もある。紹介されることが多いが,結局,実務的に案件を担当させてもらうのは1回会ってから。
そこで会って打合せをするときに,資料を全部見せてもらって,具体的に質問もする。それは午前中あるいは早い午後,13時,14時以降である。
あとは,事務所の方はドイツから司法修習生がいつも来ている。日本の司法修習制度と同じだが,ドイツはまだ2年間である。それで2年間のうちの最後の3カ月は海外に行ってもいいことになっている。条件はドイツ資格の弁護士に付いて研修を行うこと。
それで東京に来たがる司法修習生も多いので,私の事務所には必ず2人ぐらいいる。そういう司法修習生にも仕事を与えたり,日本のことを少し教えたりすることもある。だいたい司法修習生をランチに連れていく。
午後は日本のお客さんが来る場合もあるし,いない場合は意見書とか,契約作成とか,そういうPCの業務が多い。17時以降,だいたいはもっと遅い時間だが,ドイツから連絡が入ってくる。残念ながら日本とドイツの間は非常に時差があり,ドイツのクライアントから連絡が来るのはだいたい18時以降である。
かなり遅くまで事務所にいなければいけない場合が多く,そこは非常につらい。アシスタントも帰った後に1人残って,請求書作成等の仕事もある。日本では資格がないので裁判所に行くことはほとんどない。
── 先ほど,日本の方が直接お会いして話したがるとおっしゃったが,クライアントが来るときは法務部の人が来るのか,それとも顧問弁護士が来るのだろうか。
ミュラー:顧問弁護士に紹介された法務部が殆どである。法務部だけでなく,取引を担当している営業担当とか,直接取引の責任のある部署の方が一緒に来る。案件の内容は,契約作成,修正もあるが,ドイツでの訴訟も多い。訴訟の場合はどういう流れで,何でこういう問題が発生したか等,細かい質問をすると顧問弁護士,あるいは法務部の人では分からないので,営業の担当者が一緒に来ないとだめで,3人から6人が一緒に来ることも少なくない。
ハンセン:M&Aがメインだとどうしても仕事の波があるので,激しいときは1つの案件だけでも1日20時間ぐらい稼働しているときがある。先週末もそうだったが,今年は私の仕事の半分以上が西海岸のテクノロジー会社の,日本とは関係のないM&A案件にな
っている。その時差の関係でも深夜の仕事が比較的多いかもしれない。日本と関係のない案件になると,当然ながら電話会議の予定時間を合わせてくれない。
そういう案件が激しいときは,例えば深夜2時から6時ぐらいはずっと電話会議で,その後M&A契約の修正や交渉が始まって,わりと日本にいなくてもいいような生活になってしまう。それがここ3年半の私の仕事の半分ぐらいで,あとの半分は日系企業のアジア,米国もしくは欧州を対象にしたM&A案件・投資・その他の日本と関係がある案件になる。
日本の銀行のクライアントになると,朝早いので,8時からいろいろ対応して,午前11時ぐらいまでにそれが終わるのが多い。その他のクライアントの対応も,打合せ・電話会議が多いときは朝8時から17時まで時間が経ってしまう。欧州関係の日系企業の海外買収案件が入っているときは,15時ぐらいから欧州からのメールが始まるので,15時からが忙しくなる。最悪のパターンはアメリカ・欧州両方が同時に起こっている時期で,そうすると,いつ寝ても危ない。それが一番つらい。
ミュラー:そこは私がこれまでの弁護士の体験として一番つらかったことと同じだ。日本企業とドイツ企業と,あとアメリカ企業。3企業とも車の部品メーカーだが,3カ国の合弁会社設立の案件があり,電話会議をデトロイトとフランクフルトと東京で同時にしなくてはいけなかったのだが,時間設定が非常に無理で,終電に間に合わなかったことが3回もあった。
── 法律関係で日本で初めて驚いたことを教えていた
だけるだろうか。
ホジェンズ:自分の資格はオーストラリアの中のニューサウスウェールズ州の資格である。日本に来た当時は,ニューサウスウェールズ州の資格を有するロイヤーの数は2万人を超えていたので,人口がオーストラリア全体の5倍の日本の弁護士の総数がそれ以下だというのを聞いて驚いた。
ミュラー:日本で初めて法律関係で驚いたことはたくさんあるが,大きく言えば2点ある。1つは憲法裁判所がないこと。憲法裁判所がないことはドイツではとても考えられない。法律の解釈は,もちろん民法の場合は一般の地方裁判所が担当し,その上に最高裁判所があることもドイツも日本も同じである。基本権,人権の問題もあるので,最高裁判所が人権,基本権を十分反映せずに判決した場合は,その上に憲法裁判所があることはドイツの法律の解釈の当たり前のところである。それが日本にはないことは非常に驚いた。最高裁判所はその役割を少し果たしていることは認識しているが,ただ独立性がないのではないかと気になっている。
2つ目は,ドイツは法務関連の専門職は主に,弁護士,税理士,あとは公証人。公証人も今は弁護士資格だから,弁護士と税理士,弁理士,その3つしかない。日本はそれ以外の,司法書士,行政書士,社会保険労務士などの職業もあることは非常に驚いた。これらの仕事は全部,弁護士あるいは公証人がやる。
ハンセン:私の場合だと,自分の業務とは関係しないが,労働法であまり自由に人を解雇できないと聞いて驚いた。アメリカだと,電話がかかってきてクビだと言われた瞬間に終わりなので,それと比べると対照的である。
あとは離婚についても,それも同意の上でないと難しいと聞いたことがあるが,アメリカだと,嫌になったら出ていけるような軽い制度になっている。幸い職務においても自分の人生においても両方とも体験したことのない話だが,その話を聞いて非常に驚いた。
ミュラー:労働法の適用はドイツ法からの影響がある。ただ,ドイツで法律を2000年に改正して,10名以下の中小企業の場合は容易に解雇できるようになった。零細企業はなかなか人を雇うことが不可能である。経営者が1人いて,3人ぐらい雇うということだと,正社員にしないと優秀な人を雇えない。そこを最初から解雇できない条件だと,経営者としてリスクが非常に高い。だから10名以下の会社は解雇の制限が緩いというドイツの労働法の改正は非常に意味があったと思う。
日本の考え方は,労働者のためと解釈しているが,中小企業にとって優秀ではない人を辞めさせる方法がないことは,人を雇うことの制限となる。そうすると,結局パートタイムか契約社員しか雇わない。若い人が実務経験を積むチャンスがなかなか発生しない。だから若い労働者のためにも改正した方がいいと思う。
── 契約に関する考え方が自国と違うなと感じることは?
ホジェンズ:日本に赴任した当時はアソシエートという地位だったので,実務に携わるなかで数多くの英文契約書の作成とレビューの手伝いをしていた。その際に日本の契約書と比較する機会が多かったが,日本の契約書の作り方は,基本がまるきり違っていた。
まずボリュームが少なく短いところ。内容について言えば,先ほど申し上げたようにオーストラリアの法体制はイギリスから引き継いだものなので,オーストラリアあるいはイギリスのクライアントは,日本のクライアントと契約書に期待する点が異なる。海外のクライアントは,契約書の条項に,将来起こり得る可能性に対して明確な内容が反映されていることを期待するのである。
一方,日本の契約書は逆に,将来のこと,あるいは細かいところにあまり触れずに,原則論が中心で,契約はお互いの信頼のもとに結ばれている。従って,悪く言えば内容があいまいだ。西洋のロイヤーの目から見ると,そこが違うという印象を受けた。
ミュラー:ホジェンズ弁護士がおっしゃっているあいまいな定めになっていることが多いことはその通りだ。
また,口頭の約束だけで取引が成り立っているケースも少なくはなく,そこはドイツではなかなか考えられない。口頭の約束で海外で取引することは,関係がよければよいが,争う場合は非常に難しくなる。
弁護士として最初に困ることは,口頭の約束だと,準拠法は何を使うか。裁判管轄をどこにするのか,どこにも約束してない,どこにも決まってない。だから国際私法から仕事が始まることがすごく多い。
中小企業の場合は圧倒的に多いと思う。信頼関係を大切にしようとしている日本人の考え方もよく分かる。取引相手と仲良くすれば契約につながるのではないかという考えはいいのだが,ただ,例えば瑕疵担保の責任の問題とか,瑕疵が発生した場合どうするか等何も決まってなければ本当にそれぞれの民法を確認するしかない。
契約関係で,あいまいという言葉についてもう1つコメントさせていただきたい。日本とドイツとの契約で英語を使うことが問題になる。英語を使うと,日本法あるいはドイツ法に完璧に合う言葉がない場合が多い。だから英語を使って契約を作成すると,誤解の原因になる。ただ,(共通言語として)英語を使わざるを得ないので,そこは内容を明確にするためにたまに日本語かドイツ語を追加することがある。
英語自体もあまりフィットしないとあいまいさから誤解の原因になることも結構ある。言葉の解釈の問題で,1対1に同じ意味の言葉がある場合もあるし,ない場合も多い。
最後にもう1つ。国際取引関係で日本企業が海外と契約を締結する場合,契約のドラフトは片一方が準備することは普通だが,日本人は先方が契約をドラフトして送ってきた場合は修正を入れずに,その条件をのむことが多い。そこは,私は,契約ドラフトにたくさん修正を入れる。これは条件が悪いから変えるべきなど必ず入れる。ただし,裁判になってから,初めて契約を見せてもらう案件も多い。そこで,誰がこの契約をつくったのかと聞くと,相手の方がつくったと。ではその中に修正を入れたのか。いや,まったくしないでそのままにしたということがよくある。それは,日本側の会社が自分の条件,立場を悪
くしている。
ハンセン:そういう経験はやはりある。原因としては,国際的に活躍している会社の話になると全然違うと思うが,一部の国際取引に慣れてない企業だと,契約書が送られてきた時点で,それでよいのではないかとネガティブチェックの略としてネガチェックという言葉を使うが,そこにあまり金を掛けないで,本当にとんでもないことが入ってないかだけをチェックしてくださいというニュアンスで依頼してくることが多い。その会社は,まだ,そのままのんでしまって後で争って負けてしまった経験が薄いからこそ,こういうことが起こっているのではないか,弁護士が契約書をちゃんと見て修正をいっぱい入れて交渉するメリットがまだ十分理解できてないのではないかと,私はそう見ている。弁護士のことをコストだけでなく,弁護士が提供できる付加価値について,もう少し理解してもらうことが必要なケースが日本においては非常に多いと感じている。
ミュラー:そこはもう1つ追加してもよろしいだろうか。弁護士の数が少ないことと関係するかもしれないが,日本では中堅企業でも法務部の方々は必ずしも弁護士ではない。ドイツでは法務部の人は必ず弁護士資格がある。アメリカ,オーストラリアも同じだと思う。
専門性が足りない場合があると感じることがある。そういう意味では,法務部で専門性のある担当者を増やすべきではないかとも思う。
ハンセン:企業それぞれ社内で非常に長い国際取引の経験を持っていながら実は資格がないという方も多いと思う。特に小さい企業,あるいは国際的な取引をあまりしていない企業になると,おっしゃる通りまだ法務部としては誤字がないか等しかしない会社もあると言われるので,何とかその能力を高めないと不利益に働くのではないかと心配している。
ミュラー:その問題を認識している会社は必ず外部の弁護士に見てもらうという条件を設定する場合もある。そうなればいいが,ただ社内で判断することは結構不利な結果になると思う。